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武雄市の小学生プログラミング教育の成果は?

 佐賀県の西部に位置し、人口約5万人の武雄市。伊達政宗や宮本武蔵も入浴したとされる武雄温泉で有名な街だが、近年は「武雄市図書館・歴史資料館」などの、急進的な教育改革で注目を集めている。  同市は2014年4月から、市内の小学校に通う全児童約2800人に、1人1台のAndroidタブレット端末を貸与。2014年5月に、3年生以上の算数と4年生以上の理科で、タブレットを使った「反転授業」を導入した。また、2014年10月には、ディー・エヌ・エー(DeNA)、東洋大学との産学間連携で、小学1年生へのプログラミング教育に関する実証研究を開始した。

[公開日]

[著] 羽野三千世

[タグ] コミュニティ 教育IT

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小1向けプログラミング環境をDeNAが独自開発

 2015年2月12日、武雄市・DeNA・東洋大学の三者が、武雄市立山内西小学校の1年生40人を対象に、全8回実施したプログラミングの授業についての成果報告会を行った。

 このプログラミングの授業は、2014年10月から隔週で計8回、通常の授業を終えた後の課外授業として実施された。市が1人1台貸与しているAndroidタブレットにプログラミングアプリをインストール。児童が書いた絵をカメラでタブレットに取り込み、“絵を動かす”コンテンツの作り方を指導した。

 使用したプログラミングアプリは、DeNA 取締役最高技術責任者の川崎修平氏が、プログラミング言語「Scratch」を参考に、タブレット端末でのタッチ操作に特化した仕様で独自開発したものだ。Scratchと同様に、「←にあるく」「ジャンプする」「おおきくなる」などのコマンドが書かれたブロックを並べて、画面上の絵を動作させる。「さいごにタッチしたところへいく」などタブレット向けのブロックも搭載する。

 同日は、保護者や報道関係の前で、児童たちがプログラミングアプリで作ったコンテンツを1人ひとり披露した。「サンタクロースが家に入ると灯りがつく」「金太郎と熊が相撲をとる」「お母さんが来ると赤ちゃんが泣きやむ」など、それぞれが考えたストーリーを表現した。

 児童たちの作品発表会後に開催された報道向けの成果報告会には、武雄市の小松政市長、東洋大学の竹村牧男学長と松原聡 経済学部教授、DeNAの南場智子取締役 ファウンダーと川崎修平取締役最高技術責任者、山内西小の学級担任など関係者が並び、授業を終えての感想を語った。

1年生に教えることへの賛否両論

(左から)DeNAの南場智子取締役 ファウンダー、武雄市の小松政市長、DeNAの川崎修平取締役最高技術責任者、
東洋大学 経済学部の松原聡 経済学部教授

 DeNAの南場取締役は、今回、小学1年生を対象にしたプログラミング教育を発案した1人である。「真っ新な状態の1年生、それも学年全員が参加することにこだわった。若くて、何をやっても面白くて仕方がない時期に、プログラミングに触れてほしかった」と説明した。

 小松市長は、児童たちの発表会を見た感想として、「それぞれの作品が個性的だった。1年生という幼い時期から、デジタルでの物作りの面白さを実感できたのはよかったのでないか」と述べた。

 一方で、カリキュラムの難易度に無理があったという指摘もある。今回の授業では、「〜かいくりかえす」「もし〜なら」など、ループ、条件分岐まで指導内容に含んだ。1年生の学級担任である藤瀬澄子教諭は、「ブロックをつなげて動作を組み立てる作業は1年生には難しく、児童1人ではできなかった。担任が児童に対して、どういうストーリーを作りたいのか話を聞き、1対1のサポートをしてブロックを並べた」と語った。

 プログラミングアプリを開発し、全8回の授業で自ら先生として教壇に立ったDeNA 取締役最高技術責任者の川崎氏は、「8回の授業のうち、プログラミングと言える内容は3回くらい。理想的には、全体の7割程度の時間をプログラミングに割きたい。指導内容は、もう少し減らして、プログラミングでの試行錯誤の時間を増やすべきだと感じた」とする。

Androidタブレットはプログラミング教育に最適か

 今回三者が実施したプログラミング教育は、武雄市が児童全員に貸与したAndroidタブレットをどう活用していくのか、その方向性を検討する実証研究の側面が強い。では、Androidタブレットは小学生向けのプログラミング教育に最適なデバイスと言えるのか。各関係者に意見を求めた。

 武雄市におけるタブレット端末の機種選定に関わり、小学1年生向けのプログラミング教育の発案者の1人でもある東洋大学の松原教授は、「機能面、セキュリティ面でもiPadを使うのがよいと思っていた。Androidタブレットを選んだ理由はコストパフォーマンス、それだけだ」とコメントした。

 DeNA 取締役最高技術責任者の川崎氏は、OSの種類には言及せず、タブレットというデバイスの性質を評価。「タッチ操作で直感的に扱えるところや、カメラですぐに絵を取り込めるといった点で、小学1年生向けのプログラミングデバイスとしては良かった」と述べた。その上で、「小学3〜4年生くらいになれば、コードを書くようなプログラミング教育も可能になる。その場合は、キーボード付きのデバイスの方がよいかもしれない」とコメント。川崎氏によれば、今回開発したアプリは、OSによらずタブレット端末で動作する仕様になっており、iPadやWindowsタブレットへの展開も可能だとする。

「プログラミング教育の継続は未定」と小松市長

 全小学生へのタブレット貸与、官民一体型学校「花まる学習会」創設など、武雄市の教育改革を推進してきたのは樋渡啓祐前市長だ。2014年12月、樋渡前市長が佐賀県知事選挙への出馬を機に辞職。翌月の市長選で新市長に選出されたのが小松政氏である。

 樋渡前市長の改革路線の継承を掲げる小松新市長だが、今後、市内小学校でのプログラミング教育を継続していくかどうかについては「未定」とコメントした。

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