文化人類学のアプローチでインサイトを導き出す
本講座は、(1)エスノグラフィを仕事に活かす、(2)エスノグラフィからインサイトを導出する勘所を掴む、という2つの目的で実施された。講師の大川内氏が経営するアイデアファンドでは、文化人類学がビジネスで活用されるようになった社会的な背景を次のように語る。
「20世紀はモノの時代でしたが、21世紀はアイデアの時代です。売れるために重要な要素は“定量的なスペック”から“定量化できない心理的作用”が鍵になっています」
定量化できない心理的作用を紐解くための武器となるのが、文化人類学における「フィールドワーク」やその成果物である「エスノグラフィ」であり、ビジネスに有用な洞察(インサイト)を導き出すことができるという立場を大川内氏はとる。
では、文化人類学ではどのようなアプローチでインサイトを導き出すのか。以下の図のように、横軸に「主観」を、縦軸に「事実」を配置し、解き明かす内容を整理する。
鍵となるのは「暗黙知」の領域と「インサイト」の領域だ。「暗黙知」の例として挙げられたのは、工場の熟練工の話。フィールドワークで熟練工を観察すると、事前に行ったインタビューでは言語化されていない、無意識に行っている作業が多く存在した。熟練工自身は知らないと思っている(もしくは言語化できない)が、実は無意識にとっている行動を抽出できるのが「暗黙知」の領域だ。このフィールドワークでは、熟練工の暗黙知をヒントに、工場のオートメーション化に役立つ多くのインサイトを得られたという。
「インサイト」の例として挙げられたのが、「新製品開発」におけるインタビューの話。製品開発ではよくユーザーインタビューを行うが、アンケート回答を鵜呑みにすると不要な機能満載の“モンスタープロダクト”がよく出来上がる。アンケートではなく、ユーザーの行動を観察した結果をエスノグラフィにまとめ、ユーザーが自分の要望として、知っているとは思っているが実は知らない“本当の困りごと”を導き出すのが「インサイト」の領域なのだ。
インサイトと混同されやすいものとして「ニーズ」がある。従来のマーケットリサーチでは「仮説検証」を目的に、調査主体の想像の範囲内で、仮説を設計・検証する。これで理解が可能なのは、インサイトではなく「ニーズ」なのだ。
文化人類学は、徹底的な観察によって「人の総合的理解」からインサイトを得ることを目的とする。インサイトを得られることでアイデアが正しい方向に発散し、またアイデアを収束させるためにもインサイトは基準となるのだという。文化人類学のアプローチは、仮説を検証するのではなく、仮説自体を生成するものなのだ。
文化人類学をビジネスに活用するビジネス人類学では、実践的な方法論がいくつか存在する。主なものとして、「フィールドワーク&エスノグラフィ」「インデプスインタビュー」などがある。
なお、本講座は、文化人類学の調査手法のうち、フィールドワークによる成果物である「エスノグラフィ」を、ビジネスに活用するための方法を講義とワークショップで体験するプログラムになっている。