パーソル総合研究所は、人的資本情報開示に関する調査結果(以下、本調査)を発表した。本調査は、企業における人的資本情報開示に関する理解・取り組みの実態について、定量的なデータで把握し、経営・人事に資する提言を行うことを目的に実施。
調査結果概要
1:用語として「人的資本経営」は普及しつつも、具体的な開示基準等の理解度は低い
上場企業の役員層・人事部長に対し、非財務情報の開示基準や関連用語についての理解度を確認したところ、「ESG投資」が最も高く85.4%、次いで「人的資本経営」(75.8%)、「改訂コーポレートガバナンス・コード」(72.6%)であった。経営者や投資家に広く認知されている「ESG投資」と同様に、「人的資本経営」の理解度も7割を超えており、人的資本経営の概念は一定程度、普及してきているものと考えられる。一方、具体的な情報開示指針となる「SASBスタンダード」(15.3%)や「国際統合報告フレームワーク」(19.7%)等の理解度は、他の用語と比べて低い傾向であった。
2:非財務情報の開示基準への対応は「道半ば」
上場企業における非財務情報の開示基準への対応度は、「改訂コーポレートガバナンス・コード」(62.4%)を除いては全般的に低い。人的資本に特化したものとしては、「ISO30414」が24.8%、「人材版伊藤レポート」が15.9%であった。
3:人的資本の情報開示は、上場企業のみならず非上場企業も関心を向けている
企業の役員層・人事部長に対し、人的資本の情報開示に関する社内議論の実態を確認したところ、取締役会や経営会議で「最優先事項として」、または「優先度高く」議論されている割合は、上場企業では56.1%であった。また、非上場企業においても40.2%に上り、上場・非上場を問わず、優先度高く議論されつつあり、関心を向けている様子がうかがえる。
図表3.人的資本情報やその開示に関する社内の議論(上場企業・非上場企業別)
4:人的資本情報の開示は、他社動向をうかがいながら「優秀人材の獲得」「役員の意識改革」を重視
上場企業の役員層・人事部長に対し、人的資本情報の開示に際して重視する要素を確認したところ、最も関心が高かったのは「優秀人材の採用実績の増加」(80.3%)、次いで「他社の動向」(77.7%)、「役員層の意識改革」(77.1%)であった。
5:人的資本情報開示の主管部署は、「人事部門」との回答が多数
上場企業の役員層と人事部長それぞれに対し、人的資本情報に関する議論を主導する主管部署を確認したところ、役員層・人事部長いずれにおいても最も多く挙がった部署は「人事部門」であった。次いで、「経営企画部門」が2割前後、「広報・IR部門」が1割程度となっている。人的資本情報の開示においては、《人》に関わる情報ゆえに人事部門が関与するのは必然であろうが、それ以外の部門も含め、各部門が連携して準備を進めている様子がうかがえる。
6:人的資本情報の開示に際し、役員層と人事部長では現状認識にギャップも
上場企業の役員層・人事部長に対し、人的資本情報のマネジメント実態を確認したところ、「経営戦略と連動する人材戦略が策定できている」との回答は59.2%であった。また、「自社にとって重要な人的資本情報が何であるかを設定できている」との回答は45.9%であった【図表6】。
役員層と人事部長の回答を比較して見ると【図表7】、「自社にとって重要な人的資本情報が何であるかを設定できている」との回答は、役員層46.6%、人事部長43.6%と階層による認識ギャップも軽微であった。一方で、「自社にとって重要な人的資本情報をデータとして蓄積できている」との回答は、役員層33.1%に対し、人事部長が51.3%であるなど、〈HOW〉の部分の項目を中心に両者間の現状認識の乖離が示唆される結果となった。