本記事は『High-Impact Tools for Teams プロジェクト管理と心理的安全性を同時に実現する5つのツール』からチーム・アライメント・マップの使い方(計画モード)をピックアップして編集したものです。
チームがうまく行かない原因
安心感を得られないチーム環境のうえ、チーム作業の方向性がばらばらだと、メンバーが協力し合う代わりに、距離感を保って作業するようになり、思わしい成果が挙がりません。
互いに距離感を保つような働き方は、気力を消耗させます。成果が思わしくないために延々とミーティングが行われ、予算が大幅に超過する事態は、メンバーの大半が強いプレッシャーにさらされ、孤独感と不満を抱くチーム環境で起こりやすくなります。誇張でも何でもなく、チーム参加者の多くが日常的にこうした気持ちを抱えているというのが、調査で示されています。
人は距離感を保って働くだけが能ではありません。本当の意味で仲間と協力しながら働くことは十分可能です。すると不可能に近いことでも情熱を持って実現できます。もしかしたら気づいていないかもしれませんが、そうした瞬間を持てるのは「優秀なチーム」にいる証拠です。良好な成果は徐々に積み上がっていくため、後になってから実感するでしょう。
著者らは両方のタイプのチームを経験済みで、本書には過去20年分の学びが込められています。最も大切な教訓は、次の2つの領域で日常的なやり取りをどれだけうまく管理できるかによって、チームの成否が大きく分かれるということです。
- チーム作業:ミッション(使命)や役割分担が誰にでもわかるよう徹底的に明確にする
- チーム環境:信頼に基づく力強い関係を慎重に育む
私たちはチームの力を信じ、ツールの力を信じます。だからこそ5年間にわたって、そのためのツールを設計し、改良を加えてきました。本書で紹介されるツールは、次の2つに磨きをかけます。
- アライメントの十分なチーム作業
- 心理的安全性の高いチーム環境
複雑に絡み合った世界がもたらす難題には、チームでしか取り組めません。昨今では画期的な技術や前代未聞のロックダウンによって、あらゆる業界が根底から覆され、目覚ましい変化がもたらされています。組織にはイノベーションが求められ、これまでにないペースで実行していかなければなりません。そこで私たちにとっての基盤となるのが、チームです。チーム作業の方法を見直す必要性が、かつてなく高まっています。
先見の明があったピーター・ドラッカーはもうずいぶん前に「決定的に重要な問いは『どう達成できるか』ではなく『どんな貢献ができるか』だ」と言い切りました。私たちもまったく同感です。チーム・アライメント・マップをはじめ、本書で紹介されるツールは、著者らがチームにより良く貢献するうえで役に立っているのと同じように、読者の皆さんの助けとなるはずです。
ソリューションとしてのチーム・アライメント・マップ
チーム・アライメント・マップ(TAM)と4つの拡張ツールで、チームのアライメントと信頼関係を強化しましょう。どれもシンプルかつ実践的で、簡単に導入可能なツールです。
TAMの「計画モード」を使って、各メンバーの貢献を明確にし、方向性を統一しましょう。シンプルな2段階プロセス(フォワードパスとバックワードパス)で構成され、計画の立案やリスクの軽減に役立ちます。
TAM─計画モード
TAMを使って、チームが目指すミッションや、目標を誰がどう達成するかについての意思統一を図りましょう。不安やリスクが視覚的に減り、成功の確率が高まります。計画ツールの1つとして活用することで最初からメンバーを巻き込み、より高い意欲を引き出せます
ヘッダー部分にある「ミッション(使命)」は、あらゆる共同作業のスタート地点となり、チームを結束させます。各メンバーが課題を理解するのを助け、次のような動機付けを得られるようにします。
- 面白そうだから
- 誰もが関心を持っているから
- 職務を果たすうえで必要だから
ミッションが不透明だと、チームメンバーは「なぜ自分がここにいるのか」と疑問に思うばかりです。注意力や参加度が低くなり、話題があちこちに飛び、対話がすれ違うことで、メンバーが戸惑い、飽きてしまう場合も珍しくありません。
一方、「期間」は、チームにどれだけ時間が許されるかを示します。期限は必ず設定すべきです。そうすることで、目標がどこか遠い話としてではなく、具体的な行動が伴うべきものとして検討されるようになります。
ヘッダー部分によって、なぜここに集まっているのかをメンバーに理解してもらい、耳を傾けて参加してもらえるよう にします。
フォワードパスとバックワードパス
TAMでの計画プロセスには、2つのステップがあります。
1、2、3、4、5 フォワードパス
「フォワードパス」と呼ばれる1つ目のステップでは、チームでまとまって計画を立てます。効果的な共同作業のために必要なことを、左から右へと順を追って各欄に書き入れていきます。そこで全体像として示される見通しと問題点の両方を踏まえれば、プロジェクトの成功確率が高まります。
フォワードパスを通じて、チームが本当の意味で結束し始めます。メンバー同士が各自の役割や欲求を考慮し合い、共通理解が生まれます。
6、7 バックワードパス
「バックワードパス」と呼ばれる2つ目のステップは、実行リスクの軽減が目的です。具体的には、右の2つの欄に記入された内容をできる限り減らしていきます。そのために、他の欄に記入事項を加えたり、記入済みの内容を修正したり、取り除いたりします。つまりは、リソース不足や起こり得るリスクなどの潜在的な問題を、新たな目標や作業分担へと転換していきます。
チームが一体となって、視覚的に示しながら問題に対処していくと、前進の実感が得られます。適切な対処でリスクが解消されていくのを目にすれば、メンバーのモチベーションが高まり、一段と熱心に取り組むようになります。バックワードパスの最終段階は、ミッションと期間をあらためて確認する機会にもなります。
職場での具体例
広告代理店で働くオノーラ、パブロ、マテオ、テス、ルーの5人は、大事なクライアントのために、かつてない短期間でソーシャルメディア戦略を立てなければなりません。そこでチーム・アライメント・マップを使って方向性をまとめることにし、フォワードパスとバックワードパスを次のように行いました。
フォワードパス
バックワードパス
- 解析ソフトウェア:解析ソフトはあり、注意事項も点検したため、特別にすべきことはない。
- データベースへのアクセス権がない:データベースへのアクセス権付与の方法を知っているオノーラが、新たな目標と役割を書き足す。「アクセス権がない」の項目を欄から消す。
- テスに時間的余裕がない:これから解決策を見つける必要があるため、欄に残しておく。
- クライアントに連絡がつかない:クライアントから聞き取りできないリスクがあるため、マテオがあらかじめミーティング日程をすべて設定しておく。このリスクを欄から消す。
- データへの過剰な依存:気をつける以外に有効な対処法がない。このリスクを忘れないために欄に残すことで、チーム全体の合意を得る。
- これで作業開始の準備が整ったという認識をチームで共有する。
- テスの時間的余裕を作るための解決策を今後見つけなければならない。
- 全員がその点を理解していることは、テスにとって大きな意味がある。