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AIの進化と価値観の変化がもたらす自然(じねん)社会

ChatGPTがもたらす「自律社会」と「自然社会」とは──「SINIC理論」に通じる価値観の変遷

第1回

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AIを理解する上で必須の概念「強いAI/弱いAI」とは

 ChatGPT を「道具」として見立てると、その用途は多岐にわたります。適切な質問文(プロンプト)を与えることで、目の前の人を感動させるスピーチを書いたり、顧客のクレームに対して納得感の高い答えを用意したり、新規事業のアイデア出しを行ったり。そしてこれからも様々な可能性が模索されていくことでしょう。

 その一方で、ChatGPTは、人間がプロンプトを与えければ何もしようとしません。人間がいかに自分のやりたいことを理解し、それをプロンプトとして言語化し、そのうえでChatGPTの回答を見て、プロンプトに記載した条件を変更することで、求める答えに近づけていくという一連の作業が必要です。これは、意思を持つ人間と意思を持たない機械の共同作業であるといえます。

 わかりやすい例として、「ゴミ収集ロボットの失敗」を紹介します。以下の動画を見ると、半自動的にゴミを認識するゴミ収集車が、見事にゴミ箱をつかみ収集していく様子が確認できます。そして、その巧みさに目を奪われた瞬間、ゴミがあたり一面に広がります。

Garbage Truck You Had One Job(America's Funniest Home Videos)

 この動画で重要なのは、ゴミをまき散らした直後のゴミ収集車の動作です。まるで、「我関せず」といった様子で、相変わらずゴミを収集する作業を続けていることがわかります。これが人間であれば、たとえ失敗をしてもすぐにそれに気づき、手を止めて「やってしまった」などといいながら、ゴミを拾おうとするものですが、自動的な動作をプログラミングされたゴミ収集ロボットではそうはいきません。

 もちろん、もう少し賢いゴミ収集ロボットを開発することはできます。センサーを用意し、ゴミ収集に失敗したときに、アラームを鳴らして動作を止めるようにする仕組みを作ることは難しくありません。ただ、そのセンサーが故障したとすると、ロボットは当然ゴミをまき散らしたことに気づきません。それどころか、センサーが故障したことそれ自体にも、自ら“気づく”ことはできないのです。

 自らに気づき、何かを感じ取り、自分自身の運命を変えていくことができるのは、身体を持つ人間だからこそです。こうした人間と機械の違いを端的に表現する言葉として、米国の哲学者であるジョン・サールが提唱した「強いAI」「弱いAI」という言葉があります。

  • 強いAI(Strong AI):知能を持つ機械(精神を宿す)
  • 弱いAI(Weak AI):人間の知的活動の一部分のみを代替する機械。

 ChatGPTもゴミ収集ロボットも、人間が知的に活動する振る舞いの一部を代替することで人間のサポートをする「便利な道具」ではありますが、自らの精神を宿しているわけではなく、それら単体が知的生命体だというわけではありません。そうした「弱いAI」である便利な道具を活かせるかどうかは、自らに気づき、感じる身体を持つ人間にかかっています。「弱いAI」の真価は、常に人間に委ねられているのです。

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この記事の著者

松田 雄馬(マツダ ユウマ)

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