2.顧客開発モデル
ブランク氏の事業創造アプローチの2つ目は、ブランク氏自身が提唱した「顧客開発モデル」だ。「顧客開発モデルは、探索と実行の二段階からなる。まず、推測を事実に変えていくためのプロセスをまわす。詳細は、拙著を参考にされたい」と言う。顧客開発モデルは、仮説(推測)の記述→仮説の検証と洗練→製品コンセプトの検証と洗練→確認のサイクルを回していくことだ。
ブランク氏は、代表的な新事業教育の教科書となった「The Four Steps to the Epiphany」(邦訳『アントレプレナーの教科書』)を2006年に著し、また昨年「The Startup Owner's Manual」(邦訳『スタートアップ・マニュアル』)を著している。
大企業の新規事業やベンチャーは、顧客/ユーザーのことを意外なほど分かっていないことが多い。しかも、同じ過ちが繰り返されている。良かれと思って開発したものが的外れという悪しきサイクルは珍しくない。顧客開発モデルは、この過ちを避けることを可能にする。
顧客開発モデルの実践には、まず仮説(推測)をちゃんと書き出すこと。意外とこれができていない。曖昧になっていたり、整理されていなかったりすることが多い。次に、自分は分かっていると思わず、白紙の気持ちで顧客と接触することだ。顧客を知るには、対話だけでなく、製品を使っているシーンの観察など工夫もしたい。そして、インサイト(洞察)を得ることだ。バカ正直に顧客に質問して得られた回答に従っても、よいプロダクトはできない。顧客の声や様々なリアクション、そしてデータから、意味を読み取り、そのうえで知恵とイマジネーションを使ってインサイトを引き出すのだ。
3.アジャイル開発
ブランク氏の事業創造のアプローチの3つ目は、「アジャイル開発」だ。アジャイル・エンジニアリングは、仕様変更などの変化に対して機敏に対応し、迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法として知られている。ビジネスモデルを作ったら、それを顧客開発というテスト・プロセスで検証し、そしてアジャイル開発で段階的にプロダクトを作りあげる。つまり、大企業の既存事業でよく用いられるウォーターフォール型ではなく、ビジネスモデルを改善しながらプロダクトを開発するアプローチだ。
スタートアップでは推測が多く、仕様は固まらない。ブランク氏は、「プロダクトをインタラクティブに開発していく。仕様は未定であり、探索しながら仮説の検証を繰り返し、フィードバックから学びながら段々と開発を進める」と説明する。学習しながら、MVP(実用最小限の製品)から徐々に開発していくのだ。必要ならばピボットすることもある。