1.ビジネスモデル
ブランク氏の事業創造のアプローチの1つ目は、ビジネスモデルだ。同氏は、アレックス・オスターワルダー氏らが提唱する「ビジネスモデル・キャンバス」の活用を勧めている。
「経営学の教授達がこの20年いろいろとビジネスモデルについて議論してきたが、何十もの定義があって、これでは使えない。しかし、ビジネスモデル・キャンバスは、どんなビジネスでも紙1枚に収めて表現できるシンプルなものだ。ビジネスモデルは、どうやってどんな価値を創造して顧客に届けるかを示すものだ。スタートアップが悩まねばならないのは、プロダクトではなく、顧客、価値、マネー、パートナー、リソース、お金の使い方といった9つの要素からなるビジネスモデルだ」と、ブランク氏は指摘する。
ビジネスモデル・キャンバスは、次の9つのビルディング・ブロックからなるシンプルなものだ。
- 顧客セグメント
- 顧客にもたらす価値(Value Propositions)
- チャンネル(顧客との接点)
- 顧客との関係
- リソース(人、モノ、金、知的資産)
- 主な活動
- パートナー
- 売上
- コスト
ビジネスモデル・キャンバスはペーパー1枚で分かりやすく示す。だから議論しやすくなるし、スタートアップの進化の軌跡が時系列でとらえられる。ビジネスモデルといってもスタートアップによって、その言い方、表現の仕方はまちまちだ。それがあいまいだったり、人により受け取り方が異なっていたりもする。ビジネスモデル・キャンバスでは、共通のシンプルな枠組みに落とし込むことで、皆に分かりやすく、かつ議論しやすくなる。
また、前編でも取り上げたピボット(事業転換)とは、顧客や技術などビジネスモデル・キャンバスの要素の1つか2つを大きく変えることである。たとえば、売上モデルをフリーミアムからサブスクリプション(定期購入モデル)に変えることや、市場や事業環境などとマッチするか、実験を重ねることでピボットをしてビジネスモデルを改良していく。
起業家にとっては、この形式で書き出すことで考えの整理になる。そして、チームメンバーならびに外部の人とも議論をするベースとなる。だから、事業創造の次のパートである、顧客開発モデルによる仮説の検証がやりやすくなる。
またブランク氏は、「仮説(hypothesis)という言葉はもっともらしいが実際は推測(guess)のことだ。推測をビジネスモデル・キャンバスに落とし込み、これを確かめて、段階的に事実にかえていく。このプロセスをどう進めるかが大切」と言う。スタートアップでは分からないことが次々と現れる。案外と新事業の現場では、思い込みや直観がよく見受けられるが、これらはただの推測であり、ちゃんと検証しなければダメだということだ。
「その会社で一番“デキル”人でも、多くの潜在顧客による集合地にはとてもかなわない。だから顧客開発モデルを使うのだ」とブランク氏は、“過信”を戒める。顧客と接触して推測をテストしていくことは非常に重要だ。といっても、細かいことにいちいち右往左往するわけではない。テストから得られたものを深く考えて新しいキャンバスをつくっていくのだ。