現場の“お困りごと”に即してプロジェクトをピボット
──このプロジェクトがはじまったきっかけについて聞かせてください
松山智亮氏(以下、松山):弊社は、純正部品と用品の販売を基盤に、全国規模の物流ネットワークを強みに成長してきました。しかし、少子化や新車販売の減少に伴い、自動車保有台数の縮小が予測される中、新事業推進部ではこれまでのビジネスモデルに加え、新たな事業創出に取り組んでいます。
TMPの強みは、全国規模で展開する物流ネットワークにあり、私たちは用品・部品供給のロジスティクスを最適化することで企業として成長してきました。そのため、新車用品の供給効率化は既に進んでいるのですが、整備・修理の現場では需要予測が困難で、在庫管理が場当たり的になりがちでした。この課題を解決するため、「AIで予測を行い、部品をジャストインタイムで供給する」というのが当初の事業構想でした。
しかし、この提案を販売店にしたところ、「車検整備工程の予測にも活用できるのではないか」というフィードバックを受けました。そこでプロジェクトの方向性を大きく転換し、最終的には、車検整備の現場で求められているニーズに応える形で、AIを用いた「整備見積もり」の効率化に着手しました。
初期段階では、想定に反してデータ量が大幅に不足しているという課題が浮上しました。当初使用を想定していたデータはわずか3ヵ月分しか存在せず、予測モデルの構築に向けた基盤整備が必要でした。
水谷友昭氏(以下、水谷):そうでしたね。また、全国250の販売店や、販売店内部の店舗間で整備コードや作業名称がバラバラに使用されており、まずはこれらを統一して一貫性のある整備カテゴリを設定し、データ処理方法の基本方針を整えました。
大慶哲也氏(以下、大慶):その後、PoC(概念実証)を組み上げ、現場でデータを収集しながら、システムを改善していきました。その後は、トヨタ系列の販売店に詳しい企業と連携しながら、MVP(製品・サービスの仮説検証を行うために構築される、最小限の機能を備えたプロダクト)としてシステムを作成し、3つの店舗でのトライアルへと移りました。そして、販売店から寄せられた改善点や追加機能の要望を取り入れながら、システムの改善を繰り返し、開発を進めました。
松山:初期段階では、メジャーな車種に限定して予測を行っていましたが、PoCとMVPを経て全車種対応へと拡大しました。最終的には4年間で、21万台分の車両データと135万件の点検データを活用し、車種、年式、走行距離といった多様な情報を基に、整備の必要性を予測するモデルを構築しました。