アカデミアから企業へ、事業のデータからヒトのデータへ
樫田光氏(以下、敬称略):今回は、人事領域の専門家であり、ご自身も稀有なキャリアチェンジをしてこられた友部さんに、キャリアにおいて陥りやすい二者択一思考のジレンマや乗り越え方についていろいろ伺ってみたいと思います。友部さんは、アカデミックな立場から民間企業にキャリアチェンジをされているんですよね。
友部博教氏 (以下、敬称略):僕はもともと大学で人工知能の研究をしていて、ドクターを取ってアカデミアとしてのキャリアを考えていました。ですが、ポスドクとしていろいろな機関を渡り歩きながら仕事をするというのが大変になってきて。それに、今みたいにいろいろな企業がデータを提供してくれるということもなかったから、大学の研究で使えるデータというのが全然なかったんですよ。
当時、研究室の先輩だった松尾豊さん(東京大学大学院工学系研究科 教授)のやっていたベンチャー企業にも携わっていて、「あのひと検索SPYSEE(スパイシー)」というインターネット上から人間関係を抽出するサービスを開発していました。変化が見えるし、お客さんの声が聞けるし、お金も動く。圧倒的に面白くてモチベーションが上がりました。
それで、データがある企業に就職しようと考えたのが34歳です。当時、一番データが豊富なのはWeb系の企業で、中でも伸びていたのがソーシャルゲームの領域です。ゲームって普通のビジネスとは違うところにKPIがあるんですよね。ゲームとしての面白さと売上を上げることのバランスを取るのが難しい。分析のしがいがあると思い、DeNAに入らせてもらいました。
樫田:僕が友部さんに最初にお会いしたのは10年以上前でしょうか。経歴などもお聞きして、友部さんのような人がDeNAにいるというのはすごくワクワクしました。一緒に働ける機会があるといいなとずっと思っていて、僕がメルカリにいた時にお誘いしたんです。
その時は僕と一緒にサービスの分析をしてもらいたかったのですが、それはDeNAでやり尽くしたということで、友部さんは人事の分析、いわゆるピープルアナリティクス領域の担当として人事部に入社されたんですよね。
友部:そうですね。おっしゃるとおり、DeNAではゲーム以外にもB to Cのいろいろなサービスの分析をやって、「こんな感じだな」というのが分かっていました。それで、2017年に人事に異動したんです。
というのも、「ヒト」の領域って本当によく分からなかったんですよね。人間というとても変数の多いものが集まって組織を作っているわけで、それをデータで紐解いていくことができないかということに興味を持ちました。
樫田:その後メルカリを経て、ビズリーチに転職されたんですよね。
友部:はい、2019年にビズリーチにジョインし、今は「ビズリーチWorkTech研究所」の所長をやっています。人事業務の効率化であったり、ピープルアナリティクスで人を掘り下げるということだったり、あるいはAIの活用であったり、人事領域におけるデータの活用についてまんべんなく研究開発する立場です。
樫田:これまで友部さんが様々なキャリアの選択をされてこられたことがよく分かりますね。
僕もキャリアでは比較的様々な変遷があったほうだと思っていて、特に両極と捉えられがちな選択肢それぞれを経験していると思います。今は自分の会社を運営しながら、半分はデジタル庁という行政の仕事をしています。以前いたメルカリでは、本来はプレイヤー気質なのに途中からマネジャーになり、それも結構楽しかったのですが、その後再度プレイヤーに戻ったりもしました。メルカリは事業会社ですが、その前には戦略コンサルのような外部プロフェッショナルファームにいたこともある。
管理職とプレイヤー、非営利(行政)と営利(民間)、独立と組織勤め、大規模な組織とスタートアップ、事業会社と外部ファームなど。二者択一の両極と捉えられがちな選択のそれぞれを、行った入り来たりしているようなところが僕自身にはあって。そういうのを友部さんはどう考えるのか、とても興味があります。
友部:面白いテーマですね。