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二項対立を超え、未来を構想する

行政や自治体DXで学んだ大切なこと──大規模組織で抵抗勢力を作らず、1.1倍の進化で変革を生むには

【第4回・後編】ゲスト:株式会社 WiseVine 代表取締役社長 吉本翔生氏

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 前編では、連載ホストの樫田光氏(デジタル庁のHead of Unit, Fact & Data)がWiseVineの吉本翔生代表取締役社長に、起業の経緯と自治体向けの経営管理システム「Build & Scrap」をリリースするまでの経緯を聞いた。後編は、行政データの可視化による社会変革を期待する吉本氏の“野望”に始まり、法律や慣例により非常に複雑化している自治体の仕事をいかに解きほぐし、推進するのか。大企業の変革にも通じるイノベーション実現のセオリーにまで議論が展開した。

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隠れた既得権益がデータで暴かれる未来?

樫田光氏(以下、敬称略):吉本さんは、自治体の政策に紐づく各事業の予算要求、執行、行政評価までを一気通貫で見られるシステムを提供することで、事業のPDCAを回すことや評価に基づいた優先順位付けを可能にしようとしているわけですよね。

 僕もデジタル庁で事業数値などの可視化をして優先順位付けをしようといったことを話したりするのですが、そのような話題にネガティブな反応をする人が一定いるのも事実です。

 理由としては、行政の仕事は当然ながら「社会的な弱者」に限定した課題にも寄り添う必要があり、それを数値だけで評価するのは難しい面があります。特に短期的なROIみたいなもので評価すると、今年や来年は成果が出なくても20年後に意味を持つ、というような長期的な取り組みはできません。だからあまり数値化しすぎてほしくない、という行政側の反応があるんだと思います。難しい論点ですよね。

吉本翔生(以下、敬称略):その考え方はよく理解できます。僕が常々思うのは、他の自治体ではなく自分たちの過去と比較して進化してほしい、ということです。例えば生活保護の施策について、3年前に自分たちがやっていたことと比べて改善したかどうか。

 自治体には「義務的経費」といって法令で義務付けられている支出があって、それは基本的人権を保障するためにも必ず行うべき支出です。しかし、だからといって改善しなくて良い理由にはなりませんよね。

樫田:その通りですね。

吉本:自治体にありがちなのが、義務的経費という錦の御旗が立ったら、もうその内容を査定しなくなる。それはおかしいでしょう。僕らはそこを可視化しようとしています。

 自治体の事業の財源は、国の補助金など外から貰っているお金(特定財源)と域内の住民の税収(一般財源)とがあります。後者は自治体にとって、なけなしのお金ですね。ずっと経年で同額(国庫補助5割、一般財源5割)を投じている事業があるとして、国の補助金が減らされれば同じ割合で一般財源も減らすべきなのに、補助金が減った分を一般財源から充当して、毎年同じ団体に同じ額のお金を支出することがあります。毎年一億もらってたんだから引き続き同額もらえないのは不公平である、という理屈です。これこそ「既得権益」というものの実像です。既得権益という言葉の強さと裏腹に、単体で見ると至極真っ当な顔をしているものです。

 自治体の予算の約65%は義務的経費ですが、残りの約35%は自由に使えるはずなんです。でも実態は95%が経年で継続的な事業です。その中に、財源という概念が悪さをする形で、既得権益が溶け込んで見えなくなっている。財政課はそれを査定するのですが、継続事業を全部、経年比較しながら詳細に査定することなんてできません。

樫田:既得権益で得をしている人たちは、可視化してほしくないという側面もありそうですね。

吉本:そういうところこそ可視化して、民間のように分野ポートフォリオ間の競争を持ち込むべきです。そしてその予算競争の中で正当に戦い、正当に意思決定されて継続することが大事だと思います。その結果、高齢者福祉の費用が増額されるならそれが民意ですので問題ありません。ただ、それって「20年後にジリ貧になることをも可視化されたうえで包括的な意思決定をしていますか?」ということが大事になるのです。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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