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二項対立を超え、未来を構想する

資本主義の課題を克服する「贈与経済2.0」──贈与の評価とポータビリティを担保する仕組みの設計とは?

【第3回】ゲスト:慶應義塾大学 文学部 教授 荒谷大輔氏

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 デジタル庁のHead of Unit, Fact & Dataである樫田光氏が識者や実践者との対談を通じて、既存の組織の中から新たな価値を生み出す方法を探る本連載。今回は、慶應義塾大学 文学部 教授で、哲学者の荒谷大輔氏を迎えた。長らく哲学の研究と実践に取り組んできた荒谷氏は、資本主義に代わる社会システムの実装がこれまで失敗してきたのは、いずれの代案にも「束縛感」があったからだと指摘する。資本主義の課題を分析し、そして同氏の新著『贈与経済2.0』で提案されている新しい社会システムの姿を描き出す対話をお届けする。

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資本主義が目指したのは「人に喜ばれることを各々がしていれば社会が豊かになる」こと

樫田光氏(以下、敬称略):荒谷さんの新著と前著を拝読し、ビジネスにも応用できる考えがあると感じています。もしよろしければ、最初にこれらの著作のポイントを読者にご紹介いただけますか。

荒谷大輔氏(以下、敬称略):はい。経済学は商業活動を科学的に分析したものと考えられがちですが、その起源を辿ると単純ではありません。経済学の父アダム・スミスは、まず道徳の問題に取り組み『道徳感情論』を著しました。彼が目指していたのは、ボトムアップで意思決定ができる社会です。「他人に共感され喜ばれることを行えば、自分も嬉しくなるのだから、みなが他人を喜ばせるように動けば、それはすなわち社会にとってよいことなはずだ」という考え方です。これを経済分野に応用したのが彼の経済学の理論です。

 社会的に必要とされる行動、つまり社会の需要を満たすことができればお金を得られるような仕組みが資本主義経済ということです。お金を得られれば自分も他者から提供されるサービスにアクセスすることができますので、自分もうれしい。こうした競争が進むことで、社会的な需要が高い商品やサービスが人気となり、社会的な善悪がボトムアップで定まっていくというのが彼の主張です。

樫田:確かに、多くの人が欲しがるものを作り、広めることは今日の働き方の一つの基盤になっていますね。企業も「役立つものを作る」という意識で経営されています。今でもスタートアップ界隈などでは、人々が欲しがる、価値のあるものを提供すれば、経済的にも成功するはずだという考えは強いですよね。一般市民の視点で見ても、生活向上へのポジティブなイメージがあったからこそ、皆が資本主義的な流れに参加したという側面もあるかもしれませんね。

荒谷:そうですね。しかし、戦前の資本主義では、こうした発想が労働者にまで浸透していたかは疑問で、一部の資本家に限られていたと思います。労働者と資本家との対立がより明確で「ビジネスパーソン」といった概念もなかった。事業運営自体への労働者の関与は乏しく、仕事を通じて社会に貢献できるという意識は労働者にはあまりなかったように思われます。

樫田:なるほど。その時代に比べると、資本家や起業家ではない人々も、自分の仕事に社会的な意義を見出す傾向が広まっています。これは、仕事を通じて社会との接点を持てる人が増えた結果だと言えるかもしれないですね。

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

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