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投資家への「開示」から「対話」へ

投資家は対話を求め、企業は二の足を踏む──長期的な課題と戦略を伴う、投資家との“良い対話”とは?

第1回

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投資家が企業との対話を求める理由

 投資家との「エンゲージメント(≒対話)」が昨今注目されるようになった背景には、資本市場の在り方が変化していることがあります。以前の日本の資本市場は「安く買って値上がりしたらすぐ売る」というように、短期的かつ投機的な観点が前提にありました。それで実際に投資パフォーマンスが出ていたこともあり、上記のようなスタイルで資本市場に向き合う投資家が多かったように思います。

 しかし近年は、「投機」ではなく、より中長期的な「投資」の観点で企業を見つめる投資家が増えています。その背景としては、2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による国連のPRI(責任投資原則)への署名が起点となり、日本の資本市場の潮流が変わり始めたことがあげられます。2023年には、ESG投資という言葉も当たり前に聞かれるようになり、また「持ち続ける覚悟で株を買う」という名言を残している著名投資家のウォーレン・バフェット氏が日本株に投資していることも話題になりました。

 こうした背景を受けて、一段と重要性が高まっているのが、企業と投資家との「対話」です。以前は、企業の将来的な価値は財務指標などを使用するファンダメンタルズ分析によって、比較的容易に予測できたと言えます。「去年まで儲かっているから、今年も大丈夫だろう」というように、これまでの結果から推察して投機をすれば、一定のパフォーマンスを上げることができていました。つまり、特に企業と対話をしなくても、過去の数字から、ある程度は企業の未来を予測することができたのです。

 しかし、社会や経済環境が大きく変化し、情報流通のスピードが加速度的に向上した結果、今や半年先の未来も見通せない時代になりました。最近まで話題性もあり好調だった企業が、今年は存続の危機に瀕している、といったことがあちこちで起きています。どれだけ過去の数字を眺めていても、その企業が長期的に発展していくかどうかはわかりません。企業の体質やカルチャー、経営者の想い、社員のエンゲージメントなど、さまざまな変数を見ていかないと投資判断ができない。

 つまり、長期の成長可能性という見えないものを把握するために、投資家は企業との対話を求めているのです。

企業が投資家との対話に二の足を踏む理由

 一方、企業サイドは投資家との対話に及び腰になっている印象です。企業サイドも「投資家が何を考えているのか」については高い関心を持っているものの、具体的な対話に踏み込めていない企業がほとんどです。

 なぜ、多くの企業は投資家との対話に二の足を踏んでいるのでしょうか。

 私は、日本企業が投資家に伝わるレベルで長期的な成長戦略を描くことができていない現状があるからだと考えます。その要因の一つとして、社長の任期が短い(4年未満が半数程度)ということが挙げられるでしょう。3年程度で社長が成し遂げられることは限られています。多くの中期経営計画は3~5年スパンのものであり、10年後の未来を見据えた戦略を明確に描けている企業はあまり多くはありません。

 投資家は、企業との対話を通して「この企業はどのような成長戦略を描き、未来にどれだけ稼げるようになるのか」を知りたがっています。これに対し、多くの企業が投資家に伝わる長期的な戦略(=企業の価値創造ストーリー)をもって明確には答えられないのが現状です。それゆえ、投資家との対話に積極的になれていないようにも見えてしまいます。どの企業も「自社のストーリーや良さを知ってほしい」と思いつつ、投資家の求める情報を提示できていないことが課題と言えます。

 企業は今後、短期ではなく、5年、10年という長期スパンで「どのような世界を実現したいのか」という自らの未来の姿を描かなければなりません。そして、その目指す姿を実現するために、何にどのように投資していくのかも含め、綿密な戦略を立てて投資家と対話を行っていくことが重要です。

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この記事の著者

白藤 大仁(シラフジ ダイジ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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