SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

投資家への「開示」から「対話」へ

投資家との対話ツールとしての「統合報告書」の在り方──“対話のための開示”による経営の進化とは?

第2回

  • Facebook
  • X
  • Pocket

機関投資家が対話を求める理由

 有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示や、統合報告書の発行など、企業による非財務情報の開示は進んでいますが、企業と投資家との対話は依然として不足しています。前回(第1回)でもお伝えしたとおり、対話を求める投資家側に対して、企業側が投資家との対話に及び腰になっているのが現状です。

 機関投資家が対話を求めるのは、より的確な投資判断を下すためです。以前であれば、対話をしなくても、法定開示物や財務分析などの定量データから企業のパフォーマンスを予測することができました。市場環境の変化が比較的穏やかだったことから、企業に良い商品があり、売れているのであれば、今後5年くらいはこのまま戦えるだろうといった予測ができました。

 しかし現在は、情報流通や技術革新のスピードが加速し、市場環境の変化が激しいため、どれだけ優れた商品を生み出してもすぐに模倣され、優位性が失われてしまいます。先行者利益が少なくなっているどころか、より良い商品をより安く生産できる後発者が利益を得ることもある時代です。顕在化しているものだけから将来を予測するのは、もはや困難だと言わざるを得ません。

 こうした時代の変化もあり、投資家は企業の将来財務に影響を与える非財務資本に注目するようになりました。しかし、非財務資本が将来財務へと転化していくストーリーを明示し、説明できている企業はごくわずかです。機関投資家からすると、将来を予測するためには、企業からの開示だけでなく、対話を通じてより有益な情報を得るしか方法がないというのが実情です。

未来の目標への道筋をファクトや背景情報とともに示す「統合報告書」

 では、機関投資家が企業との対話において知りたいことはなんでしょうか。それは、あらゆる経営施策の「事実」や「結果」だけでなく、「何のために」「何を目指していて」「どんなことをしてきたか」という、いわば「目的」と「到達に向けた道筋」です。

 プロスポーツチームに例えると、「今までの勝敗実績」は財務的な実績のようなものです。また、昨今は「どんな選手や何を教えることが得意なコーチが何人いるか」や「1日に何時間練習しているか」といったようなデータを用いて実績の背景にあるファクトを明示するケースも増えてきました。しかし、これらはただの「事実」です。機関投資家という投資に関するプロフェッショナルが未来を予測するためには、「どのようなチームを目指して、そのためにどのような練習をしているのか」といった「目的」と「到達に向けた道筋」が必要なのです。企業経営で言えば、「業績はどうだったか」「取締役会の人数は何人で、そのうち何%が社外取締役か」という「事実」だけではなく、「取締役会でどのような議論が交わされたのか」「社外取締役からどのような提言があったのか」といった「到達に向けた道筋」もあわせて開示することが大切です。

 うまくいった結果ばかりを並び立てられても、この先の将来もうまくいくとは言い切れません。だからこそ、結果に至るプロセスを見たい・目指す先を知りたいと思う投資家のニーズに向き合い、より詳細な経営戦略や目指す姿、経営者の想いやメッセージの発信が求められているのです。そして、それらを発信する媒体として、企業が比較的自由にメッセージを表現できるものの一つに、統合報告書があります。

会員登録無料すると、続きをお読みいただけます

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

次のページ
まずは、対話のツールとして「統合報告書」は位置づける

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
投資家への「開示」から「対話」へ連載記事一覧
この記事の著者

白藤 大仁(シラフジ ダイジ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X
  • Pocket

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング