「確実性よりスピード重視」
デザイン思考における合意形成の根拠は、1:現場調査で得られた定性的情報、2:チームメンバーが持つ知識や経験の2つしかない。常に「現場調査が不十分かもしれない。もっとインタビューすべきではないか」といった考えや「事業創造を行うには、私たちの経験は不足しているのではないか」といった不安がチームを襲う。
日本企業のイノベーションの事例としてよく紹介されるソニーのウォークマンでさえ、創業者の井深大と盛田昭夫以外の役員は、当初その需要に極めて否定的な意見を持っていた。当時「移動しながら音楽を聞く手段がない」という問題は、問題であるとさえ認識されていなかったからだ。
問題設定について、スタンフォードの関係者から著者が受けたアドバイスは「チームメンバーの50%以上が合意するなら、次に進めればいい」というものだった。なぜなら「本当に存在するかどうか誰も証明できない問題について、100%の合意を得るなど不可能」だからだ。「確実性よりもスピード重視」だ。
さすがに、明らかに再点検すべき内容であれば別だが、「確信が持てない」程度の場合は先に進めるほうがいい。着眼点が間違っていれば、もう一度やり直せばいいだけの話だ。感情的にならないためにも、最初から「着眼点は仮置きで進めよう。メンバーの半数が合意すればOK」といった形でルール化しておこう。
重要なのは、着眼点の判断基準を「正しいかどうか」ではなく「焦点が絞られているか」に置くことだ。前例のない新しい市場を生みだすという点だけ取り上げれば、イノベーションへの取り組みは「何でもあり」となる。しかし、何でもありの状態が目の前にあったときに、大抵の場合はこう思う。「一体、何から手を付ければいいのだろうか?」と。
問題の焦点をある程度絞り混んでいくことで、「最初にすべきこと」も見えてくる。見えてくれば具体的な行動が生まれる。焦点が絞られた着眼点を設定することで、次の行動を促すようにしていきたい。