Build/Buy/Partnerと過剰な自前主義
「Build/Buy/Partner」というよく知られたフレームワークがあります。日本の大企業に当てはめるとどうなるでしょうか?
Buildとは、自社の人材、知財、資金を使って新しい事業を構築することです。プロジェクトのコントロールを100%掌握できる利点はありますが、一方で適切な能力のある人を用意できなかったり立ち上げの時間がかかったりした場合、結果としては安くない費用を要するかもしれません。
Buyとは、買収を通して新しい事業を構築することです。知識のある人材や市場アクセスを迅速に獲得できる一方で、多くの資金が必要になる場合や、文化の違いによって買収先のポテンシャルを引き出せない場合が考えられます。
Partnerとは、外部との連携によって新しい事業を立ち上げることです。スタートアップへの出資を通じたパートナーシップ構築もここにあたります。迅速に、またBuyよりは少ない資金で市場に打って出られることから、市場が出来上がっていない、もしくは見えない・理解できていない状況では、Buyの前段階としてPartnerを選択することもあるでしょう。注意点は、文字通り「パートナーシップ」のため、信頼関係構築とその維持が必須であることです。Buyも同様ですが、そもそも対象企業がほとんどない場合にはPartnerを選択できない可能性もあります。
さて、ここまでご紹介したBuild/Buy/Partner。いずれも手段、つまり“How”だとお気づきでしょうか。実は“Why”、つまり「なぜこのプロジェクトを行うべきか」から出発することが肝要です。Build/Buy/Partnerそれぞれをいつ、どんな場合にとるべきか決める際には「自社と相手企業の文化の近さ」や「失敗の許容度」など様々な考え方がありますが、日本企業にとってとりわけ重要なのは「緊急性が高いか」と「既存の主力事業に近いか」の2点だと私は考えています。
たとえば、主力事業で急ぎではない場合にはBuildが適しているでしょう。既に業界知識や市場アクセスがある状態からさらに知見を構築できるため、時間がかかるというBuild特有の問題点を解消しつつ差別化できます。日本企業はこれが得意技でしたし、今もそうでしょう。一方で、得意技であるあまり「過剰な自前主義」に陥っていることもあるのではないでしょうか。では、Build以外も考えてみましょう。
主力事業で急ぎの場合にはBuyが適しています。そのような場合には既に市場の大きさが見えている段階でしょうし、資金を投入しても回収できる見込みがあるのであれば、買収による拡大はまさに時間をお金で買うことになるでしょう。一方で主力事業ではなく、急ぎの場合にはPartnerを検討するのがよいのではないでしょうか。パートナーシップを結んで事業展開をするうちに市場に対しての理解が深まるため、その後、それが主力事業の隣接領域であることが明らかになったらBuyに移行することもあるでしょう。CVCで出資し、協業を進めている相手を買収する例はまさにこれです。
「過剰な自前主義」によって、本来ならBuildすべきではないのにBuildを選択していることはないでしょうか。過去の自前主義の流れかもしれませんし、社外の人間は信用できないという恐れかもしれません。Partnerとして事業を進めていたスタートアップにて、キーパーソンが退職してプロジェクトがストップした、スタートアップが事業転換したためプロジェクトが成り立たなくなったという事例は実際に見聞きするところです。しかし、Buildで頑張ってもうまくいかず、かつうまくいかないことが明らかになるまでにも時間がかかるなら、Build以外の方法に目を向ける価値はあるはずです。