明治安田総合研究所は、アルムナイと退職後も継続する関係の重要性について調査した。
アルムナイ、欧米企業を中心に普及
アルムナイとは、「大学など教育機関の卒業生や出身者」を意味するラテン語が由来だが、現在は人事領域で企業の退職者を指す言葉として使われる言葉。事業や組織の構造がアルムナイと親和性のある欧米の特定の業界で自然発生的に使用されるようになり、普及した経緯があるという。
たとえば、コンサルティングファームなどは製造業などに比べると比較的規模の小さいプロジェクト型で業務を完結し、サービスを提供できることから、個人の力量の影響が大きく、人材は中途採用が中心であり、退職後の転職先も幅広い。そのため、アルムナイとつながる風土が自然と醸成されたという。
国内では、2022年5月に経済産業省より公表された「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート 2.0~」において、アルムナイと中長期的に優良な関係を築くことや、アルムナイネットワークを活用することが重要な取り組みとして挙げられている。
また、日本経済団体連合会(経団連)の2022年度版「経営労働政策特別委員会報告」でも、企業の採用方法の多様化の例としてアルムナイが示された。
アルムナイの検索数(100を最大値として指数化したもの)を見ると、右肩上がりの推移となっている。
注目される背景に、人材確保のほか、人的資本経営や社会関係資本の側面
アルムナイが注目される背景には、企業にとって人材の確保が課題となっていることが挙げられるという。また、アルムナイへの関心の高まりには、人的資本経営や社会関係資本への着目といった側面もあると同社は述べる。
たとえば、人的資本に注目するステークホルダーはその効率性に注目しており、統合報告書などでアルムナイを社外の人的資本とみなして情報開示する企業が増加。
以前は退職者に対するネガティブな捉え方もあったが、近年では企業とアルムナイ、現役社員とアルムナイ、アルムナイ同士のつながりなど、それぞれの関係性が良好な社会関係資本になるという考え方が拡大しているという。
また、コロナ禍が働き方を考えるきっかけとなり、キャリア形成や転職に目が向けられるようになったこともあり、人的資本、社会関係資本として、アルムナイとつながりを保つことが有益との認識が浸透しつつあるとしている。
今後、人口減少にともなう労働力人口の減少に加え、雇用の流動化も加速することが予想され、総務省の「労働力調査」からは、転職者数が増加している様子は見受けられないが、転職希望者数は増加基調で推移していることがわかった。
労働市場では約5%が転職しており、企業がアルムナイとのつながり、社会関係資本をこれまで以上に活かしていくことが求められるという。
メンバーシップ型とも親和性が高いアルムナイ、退職を前提とした人事制度運営が重要
厚生労働省が10月25日に公表した「新規学卒者の離職状況」を見ると、就職後3年以内の離職率は大卒で34.9%、高卒で38.4%と3人に1人以上となっている。
企業規模別では、従業員数が少ないほど離職割合が高いが、1,000人以上の企業でも4人に1人以上が就職後3年以内に辞めており、企業は、退職が一定程度生じることを前提に、採用戦略を立案しておく必要があるという。
アルムナイネットワークの運営にあたり、雇用開始時点から考えることが重要であり、社員の退職時ではなく入社時からアルムナイの考え方を周知することで、退職者との良好な別れ方が可能だとしている。
アルムナイは、企業として社員のキャリアやウェルビーイングに対する継続的な意思表示に効果を発揮し、結果として現役社員のエンゲージメント向上や企業ブランディングの向上にも役立つという。
また、雇用関係にある時から退職に備えることで、離職コストを抑制することができるほか、企業が求める人材をアウトバウンドでスカウトでき、労働需給のミスマッチ防止を図れるなど、採用コストの削減にもなるとしている。
社外経験者が出戻ることで、ロールモデルのパターンが広がるほか、社外のビジネスパートナーとして新たな事業を展開するなどの形で、長期的価値の創出につながる可能性を高められると同社は述べている。
一方、デメリットとしては、退職のハードルを下げてしまう恐れがあり、組織化されたアルムナイネットワークを通じて、優秀な人材の引き抜きが行われるリスクも考えられることから、それらも踏まえた制度設計が必要だという。
アルムナイはジョブ型雇用の欧米を中心に発展してきたが、メンバーシップ型雇用が残る日本での親和性も高い。仕事上のスキルは、他社でも通じるスキルと企業特有のスキルの2つに大別できるとのことだ。
他企業にいたアルムナイが豊富に持つ前者のスキルには、社内に新たな視点や提案をもたらす効果が期待されるほか、アルムナイにとっては既知の社内特有ルールや、社内にしか通じない習慣の見直しのきっかけにもなり得るなど、組織の活性化やイノベーションを促進する可能性も期待できるという。
また、近年はアルムナイとは別に、就職活動時の内定辞退者に対してファストパス(採用優遇措置)を与える企業も出てくるなど、人材確保に対する動きが多様化、活発化している。
企業にとってアルムナイとは、誰でもよいから人材を確保するためのプールではなく、唯一無二の貴重な存在であり、労働者にとっても、キャリアを通じて培ってきた人脈などの社会関係資本を活かせる意義は大きいと同社は述べている。
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