著作権ビジネスにも影響を与える「TPPによる変化」を中計に反映する方法

第4回:TPP(1)著作権

 TPPが大筋で合意したが、これから各参加国における批准手続きの難航も予想される中、流動的な要素が多い今後を的確に予想するのは難しい。実際、今回の大筋合意も必ずしも事前に予想されていた結果ではなかった。
 経営企画部にとって重要なことは不確実な予想を行うことではなく、TPPが外部環境に与えるシナリオ包括的に把握し、事前に対策を考えることである。本連載ではTPPを経営計画にどう反映し、ベストな対策を講じるかについて解説する。

[公開日]

[著] 中村事業企画

[タグ] 事業開発 企業戦略 事業企画 経営企画 TPP 著作権

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「コミケの未来」をシナリオ化する

 あまり知られていないが、著作権法は国による運用の違いが大きい分野である。米/英/韓は判例主義に立って著作権を運用する一方で、日本/欧州は成文主義を取る。簡単に解説するなら、米国が「曖昧な法律でも概ねよしとする。細かいところは裁判所が決着をつければよい」とする事後の紛争処理を積み上げるスタイルを好む一方、日本/欧州は「事前に細かく規定しなければならない」とする法規制に近いスタイルを好む。これはどちらが良いという話ではなく、社会的な慣行による。
 例えば、事後規制型の米/英/韓では、ある作品のパロディについては著作権違反には問われない。フェアユースという形で抜け道を作り、紛争の多発を防いでいるからである。しかし、成文主義の国では「何がパロディか」を事前に法文で規定できないため、日本の文化庁は今日までパロディを認めていない。
 このように著作権法の運用状況が各国で異なるにも関わらずTPPでその扱いを一元化しようとすれば、運用の歪みが生ずる。ゆえに、以前からTPPによる著作権法改正の行く末については諸説が乱立していた。

 事業経営の観点に立ったとき、このように錯綜する議論を俯瞰する際には、シナリオ化を行うのが最も洗練された解法である。立法/司法/政治/産業の4者がバラバラに影響しあうゲーム(複雑系)では、未来を予想する技術が存在しない。そこで、最大の努力としてそのシナリオを整理したうえで対策を考案するのである。
 2014年の時点で当社が某アニメ会社に提示したTPP/著作権シナリオは、実際に下のような図に整理されていた。

2014年時点でのTPP/著作権シナリオ図1. 2014年時点でのTPP/著作権シナリオ

 TPPが実現するものは図の上位にある、①保護期間の大幅延長 ②非親告罪化 ③法定損害賠償金制度の三つである。②と③はつながっており、違反が発生した時点で著作者が申し立てなくても侵害行為が確定し(非親告化)、事後の処理は法定損害賠償の規則によって決められる。
 これはスムースに著作権侵害を立件し、損害賠償を行える制度だから、警察/著作権者にとって便利な仕組みである。当然、もしTPPが成立すれば著作権を侵害する側には強く委縮効果が働くため、二次創作作品(パクリ/パロディ)の私的な売買を中心とするコミケの消滅が懸念されてきた。

 2015年10月のTPP大筋合意後、さらにこのシナリオは変化した。その後、日本政府は交渉を通じて非親告罪化の対象を狭く規定することに成功したからだ。
 具体的には、「原作等の市場での収益性に大きな影響を与えない場合は非親告罪化の対象から除外する」という条件を加えた上で、大筋合意とした。さらに文部科学相の諮問機関、文化審議会/著作権分科会は二次創作が新たな才能を生みだす”エコシステム”の一部として機能している現実を鑑み、二次創作を非親告罪化の対象から外すとした。

2016年時点でのTPP/著作権シナリオ図2. 2016年時点でのTPP/著作権シナリオ

  図のようにこれら一連の経緯が重なって、状況はさらに複雑になった。
 収益の損害に与える可能性からみれば、作品を楽しんで盛り上がるコスプレは違反にはならず、コミケという場所/日程に限定された狭い範囲では、二次創作(同人誌)は合法化されるだろう。その一方で、ネットで大々的に二次創作をばら撒いたり、同人誌が堂々と専門店で売られる大規模な流通には制限が付く危険がある。なぜなら二次創作は「個人の趣味」であり、収益に制限を与えないという範囲でのみ許されることになるからだ。つまり、二次創作の世界は「例外」として保護されるが、商業/露出面での大規模な広がりは規制されるだろう。

 中期経営計画の策定者はこのようなTPPによる変化をシナリオ化し、さらに先を考えなくてはならない。

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