「財政の危機」に前向きな機会を見出す
かつてWTOという馴染みのない海外の貿易ルールは、間接的な経路から大規模店舗法の改正を促し、これを機に地方の商店街は壊滅した。嘆く向きも多いが、生産性の低い零細小売店を温存して損するのは地場の消費者であり、消費者が自ら足を運んで郊外にある大型店を選択したからこそ、駅前の光景が変わったのである。このように市場のルール変更は大きな需要シフトを招くことが多く、その多くは代替需要の勃興である。
実際に大店法改正後、大量の零細小売店が郊外型専門店/コンビニFCに代替された。このように市場に変化が起こった場合の未来は単純ではなく、予想を超えた大変化が到来する可能性がある。単純にスタグフレーションによって景気が冷え込み、雇用が低調になるだけでは済まない。
市場変化は複雑なうえにその影響は市場によるから、変化の全てを一般化することは難しい。そこで本稿ではあくまでもその分かりやすい例として、二つの戦略パターンを提示してみたい。
①官需の代替シフトに乗る
上に示すのは、自治体病院の経営状況である。グラフが指摘するように、日本に数多く点在する自治体病院の大多数は赤字で運営されてきた。財政破綻後にこれらの病院の経営が無傷で済むはずが無く、地方の僻地からは一斉に撤退が始まるであろう。
同時に、ここには二つの代替需要が発生する。ひとつは病院経営のアウトソース/経費削減ソリューションである。病院の効率がどの水準にあるかは過去の経営レベルが決めるが、PFI[注1]の導入/仕入れ統合等の外部サービスを含め、ここには改善の余地が残っている。
経営の本丸を平時に譲り渡す経営者はいないが、危機が到来すれば話は別である。特に高齢化した中小企業/公的機関には、組織全体の継承圧力が強く働く。これと同様の構図は、既に「弱者排除」が政策的に誘導されている病院業界のM&Aにおいても当てはまる。
同様に、医療費を削減出来る代替サービスには大きな機会が到来する。
上に示す普及率のグラフは、フィットネスクラブの国際比較である。フィットネス業界では「3%の壁」と言われ、長く普及率が3%を突破出来ない状況が続いてきたが、これが変わる可能性がある。グラフのように普及率を拡大するキーは低価格化/公共経済の介入にあるが、英国のように国民の約半数が公共フィットネスクラブに通うようになれば、状況は激変する可能性が高い。
現在のところ公共事業がフィットネスクラブの分野に参入する事に関しては政治的な縛りがあるが、医療費削減のために3千万人ともいわれるプレ高齢者/前期高齢者を中心にフィットネスと関連した「ヘルスケアポイント」が付与され、保険費/公的医療負担/マイナンバーと関連した政府の介入が始まれば市場は一気に変容し、多くの事業者が新規参入するだろう。
当然ながら、数多くのスポーツ/ヘルスケア事業者が予防医療分野の市況変化に注目している。しかし、実際に財政破綻後にどのようなシナリオが想定され、具体的にその変化に対応するプランを持っている事業者はほとんどいない。
過去の思考の延長に基づいて医学部/有名企業と連携し、水面下で研究を継続する状態が長く続いているが、変化が起こった際にその努力が役に立つ保証はない。変化の速度/インパクトが大きいことが予想されるからである。
トリガーがなければ新市場は出現しないのだから、注目すべきはトリガーをテコにした参入戦略の側である。インターネットが登場したときのことを思い出せば分かるが、過去のルール/常識に縛られていた既存企業の大部分は、具体的なプラン/サービスを投入してくるベンチャー企業にまるで勝てなかった。
これと同様に、将来の飛躍のために必要なのは過去に積み上げた実績ではなく、未来志向のシナリオ分析/シナリオ実現のための準備である。
[※注1]PFI(Private Finance Initiative):公共サービスの提供に際して公共施設が必要な場合に、従来のように公共が直接施設を整備せずに民間資金を利用して民間に施設整備と公共サービスの提供をゆだねる手法である。
参照:Wikipedia(PFI)