第三の矢が“飛ばない”シナリオ―中計で「財政の危機」を扱う方法(2)

第2回:財政の危機(2)

 政府/自治体の国債発行残高が1,000兆円を超過した現在、財政問題は企業経営において既に無視できない要素になっている。中計が来る5年間を対象とするなら、市場に巨大な変化が到来する事態を想定すべきである。
 中期経営計画の観点から見たとき、重要なポイントは「破綻するのか/いつ破綻するか」ではなく、現実的な「プランB」を検討する事である。また、市場に到来するであろう大変化に備えることによって、大きな商機を見出すことも可能である。本連載は、その基礎となる発想/計画論について解説する。今までの連載はこちら

[公開日]

[著] 中村事業企画

[タグ] 事業開発 企業戦略 事業企画 経営企画

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財政破綻に関する議論の混乱に注意

 財政破綻を冷静に考えると先進国型のスタグフレーション/インフレ税に帰着する可能性が高いが、あまりの怖れから冷静な判断を下すのが難しくなるため、世間の議論は混乱している。混乱には幾つかのパターンがあるが、中期経営計画の議論においては、以下の混乱に注意した方がよい。

 第一の混乱は、「財政は破綻しない」と主張する論者による情報の撹乱である。これは政府関係者からも定期的に発信されており、メディアでは今でも根強い。この混乱の中核には、破綻に関する定義の問題がある。

タイトル

 上図のように、政府は常に「対外的な債務不履行宣言」「年金/医療制度の完全破綻」のみを狭く破綻であると定義し、「破綻しない」と言い張ることが多い。確かに定義を狭くすれば破綻することはないが、聞き手が金融関係者でないのなら、解釈に注意すべきアナウンスであろう。

 特に経営企画部は、この「破綻の定義」に関して慎重になる価値がある。何をもって破綻とするかは、実質的な市場への影響で決まるからである。
 例えば、対象が自治体病院/ゴルフ場ではその影響がまるで違うし、年金の減額/現役世代に対する給与への影響も異なるだろう。影響の及び方は市場/置かれている状況によるため、自社の視点から多角的に評価する必要がある。
 例えばだが、当社の試算によれば、財政破綻が起こって可処分所得の大幅な減退が避けられないと仮定しても、ゴルフ市場の総需要は15~20%しか後退しない。だとすれば危機だと大騒ぎするのではなく、冷静にシェアの拡大を狙った方が良い。このように破綻と一言で言っても影響は市場によって千差万別なのだから、自社にとって有益な判断をしなければならない。

 第二の混乱は、国家が活用できる金融資産の評価である。特に「1700兆円の家計資産」「海外にある金融資産」を持ち出して破綻しないと言い張る論者がいるが、これは間違っている。

タイトル

 上図のように、資産のほとんどを政府債務の返済に充てることは出来ない。特に1700兆円の個人金融資産については誤解が多いが、その内訳には持家から由来する資産/事業性資金/消化予定の年金が相当に含まれており、国債の返済に充て込める種類のマネーは多くない。

 また、対外純資産は狭義のデフォルトリスクを抑制するかもしれないが、だからといって政府が強制的に徴発出来る資産ではない。民間の資産を政府の資産に変える際には増税が必要だが、そもそも増税が出来ない「力の弱い政府」だからこそ、現在の苦境に陥っているのである。
 増税の難易度は政府への信頼で決まるとされるが、日本人の政府への信頼度は以前から主要国で最低ランクを更新し続けている。5%の消費税増税に15年を要し、高度成長期から言われているマイナンバー導入に40年を掛けた事実は、将来の困難を暗示していると言えよう。

 最後に混乱が起こるのは、社内である。一般に財政問題に関しては、「都合が良ければ認める。都合が悪ければ頭から否定する」という激しい意思決定バイアスが存在する。例えば、公的な医療費で事業が支えられている場合に財政破綻は頭から否定される一方、民間活力導入が期待される個人医療ニーズの側にいれば、財政破綻は歓迎出来る変化として解釈される。
 日本企業の経営者は攻めの側に向いた意思決定のプロというよりは、企業統治を得意とする経営者が多いため、企画部の側としては、あくまでも冷静な判断を経営者に促すことが望ましい。そもそも財政関係の動向は、情緒で判断出来る種類の情報ではない。冷静に「捨てるものは捨て、得るものは得る」というヘッジ経営が求められるからである。

 このヘッジ経営を考える際に登場する概念が、「プランB」である。

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