製薬業界にも影響を与える「TPPによる変化」を中計に反映する方法

第5回:TPP(2)製薬業界

 TPPが大筋で合意したが、これから各参加国における批准手続きの難航も予想される中、流動的な要素が多い今後を的確に予想するのは難しい。実際、今回の大筋合意も必ずしも事前に予想されていた結果ではなかった。経営企画部にとって重要なことは不確実な予想を行うことではなく、TPPが外部環境に与えるシナリオ包括的に把握し、事前に対策を考えることである。本連載ではTPPを経営計画にどう反映し、ベストな対策を講じるかについて解説する。

[公開日]

[著] 中村事業企画

[タグ] 事業開発 企業戦略 事業企画 経営企画 財政破綻

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TPPは医薬品流通を変える?

 TPPの大筋合意に至る終盤において、米国はバイオ医薬品の開発データの保護期間について長期化を主張し続けた。これはジェネリック製剤の製造開始を先送りする効果を持つ。このように米国は新薬開発を得意としており、ジェネリック(以下、GE)の進展には前向きでないように見えるが、その一方で米国は以前から日本市場のジェネリック市場の開放、特に医薬品流通の透明化を主張してきた経緯がある。

 GE製剤の世界大手デバ、一時期勢いのあったランバクシーの両社は日本に参入した当初は失敗している。外資GEメーカーが失敗したのは、既存の流通網から排除されたためであると言われ、ここには日本の特殊な事情があった。
 常識的に考えて、医薬品卸が特定の事業者を排除すれば不正競争防止法に違反するように思えるが、日本市場の流通は(医薬品分野に限らず)以前から歪んでおり、実際に非関税障壁/ベンチャーを排斥する障壁としても機能してきた。
 以前から日本の医薬品卸は力が弱く、大手医薬品メーカーの支配を受けてきた。これが問題になるのが、販促費/他社製品の取り扱いである。大手医薬品メーカーが出資する医薬品卸が、他社の製品を好んで流通させたがる保証はなく、親会社が作った製品の流通を望む。他社から流れてくるGEが市場が流れ込むのを、実質的に阻止することも可能である。

 数々の不透明な取引慣行を改善しようと、国は1980年代からメーカー/卸/医療機関に対して是正を求めてきたが、取り組みは遅々として進んで来なかった。それは国内製薬メーカーの力が強いからだが、これを打破する外圧としてTPPが機能する可能性がある。
 もともと米国通商代表部はTPP交渉の以前から新薬/GEの双方について、「流通の権利を保証し、医薬品の効率的流通の妨げとなり得る国内障壁を最少化すべき」と明確に要求していた。外資の医薬品メーカーが「医薬品卸を支援する明確なデータの提示」を国内企業に求めていた過去の経緯もある。つまり、もしGEが普及しない理由が流通サイドの障害によるものであるとするなら、TPPの施行後に米国企業は紛争解決機関にこの件を提訴することが出来る。

2012年時点の筆者によるTPPシナリオ2012年時点の筆者によるTPPシナリオ

 上に提示する図は、2012年末の時点で当社が予想していたシナリオである。この図は、国内市場での営業戦略を立てるべく、某メガファーマのために作られたものである。
 当時からGE普及率向上の10%に該当する分は、薬剤費比率を数%低減する効果しかないことが分かっていた。ゆえに厚労省が政策的に介入し、GEの普及拡大に乗り出すシナリオが濃厚であろうと予想していた。実際に後の2014年には薬価改定にGE普及が織り込まれ、処方加算も設定された。後発医薬品係数という新算定方式も導入され、厚労省は着々と手を打っている。
 また、TPP加盟を契機とした流通構造改革が進展し、外資医薬品メーカー/小規模メーカーが製造したGE製剤が大量に市場に流れ込むことによって、大幅なGE普及が見込まれるとも予想していた。いわゆる「TPPシナリオ」である。

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