「裏にあるニーズを捉えたい」提案力を高めるAI活用イメージ
こうした成果を経て、HISはデータでさらにどのような価値を提供していこうとしているのか。

桑野氏が澤田氏から直接聞いたところによると、方向性の1つに「パーソナライズの進化」があると言う。
現在の同社のWebサイトは、顧客側でニーズが固まりきっていないフェーズでも、「行き先」や「日程」などがある程度決まっていることを前提に条件検索を行う仕組みとなっている。旅行目的も、「温泉」「アトラクション」「自然」など大まかな区分けになっており、その背景にある深いニーズを掘り起こすまでには至っていない。店舗であれば、スタッフとの会話を通じて自分のニーズを深掘りしながら旅行目的や行き先を決められるが、現状のWebサイトで同じことを実現するのは難しい。
こうした課題を解決するテクノロジーとして、澤田氏が期待しているのがAIだ。旅行に行ったユーザーの検討前の行動や心理状態をデータで取得し、さらに旅行中の満喫度合いや満足度を蓄積、旅行後の口コミや感想なども併せて収集して分析していけば、細かいニーズや評価ポイントなどユーザーのコンテクストが見えてくる。たとえば「自然を満喫したい」という目的の家族旅行だったとしても、その裏には「子どもに虫捕りを経験させたい」というニーズがあれば、海よりも森や林の自然豊かな地域を提案することが可能になる。
そうした旅行プランの検索や策定が、テキストベースではなく、音声入力など会話ベースでできるようになれば、顧客体験はさらに向上する。
こうしたマルチモーダル対応をはじめとして、今後の顧客価値向上に向けてはデータとAIの活用がますます欠かせない。澤田氏は「今後、AIとテクノロジーはかつてのインターネットと同様に中心的なテーマになると思います」との見解を示し、次のように説明した。
「旅行領域では、お客様の希望はとても曖昧なところからスタートします。そこでAIを活用して予算・年齢・行き先・食事・アクティビティなどの条件を組み合わせ、より詳細なニーズを汲んだうえで最適な旅行商品を自動提案できれば、顧客満足度や成約率はさらに向上すると考えています。旅行の価値は旅マエ・旅ナカ・旅アトと長い期間にわたって体験されるため、その間の接点を通じてデータを蓄積し、それを基によりパーソナライズされた提案を行うことで、理想的なサービスが実現できると期待しています」(澤田氏)

AI活用時代が本格化、独自プロダクトの開発へ
一方で、データとAI活用に関してはまだ解決すべきことが多い。
特に大きな課題は、オンラインとオフラインのデータがサイロ化している点だ。さらに、ホテル予約のユーザー、ツアー予約のユーザー、航空券予約のユーザーとデータが分断しているため、1人のユーザーを軸に横串でデータを把握することが難しい。
これに対し現在同社では、店舗とオンラインを含めてすべてのデータを統合するプロジェクトを進めているとのことで、これが実現すれば「顧客のLTV向上に向けた取り組みがさらに加速します」(澤田氏)と期待を寄せる。たとえば、学生時代の旅行、社会人直前に楽しむ旅、新婚旅行や家族旅行、そして第二の人生でゆったり過ごす非日常といったように、人生のライフステージに合わせて最適な提案を行うことも可能だ。
また、日本人旅行者だけでなく、海外からの旅行者へも同様の対応を進めることで、あらゆる顧客の体験価値向上に貢献していくと言う。

最後に澤田氏は「予期せぬ出会い」(セレンディピティ)の重要性について述べ、「顧客自身が気づいていないものを提案することで、新しい体験や気づきを与えることの価値は大きいです」と強調した。また「AIとテクノロジーの波は確実に来るものの、単なる人真似ではなく、独自の提案や技術を作り出していくことが大切です。5年後、10年後の未来を見据えた想像力を持ち、データをベースにしながらも革新的なプロダクトを生み出していくことが、日本が世界で戦っていくために必要だと思います。HISらしいチャレンジを、AIとテクノロジーをど真ん中に据えて進めていきたいです」と述べ、セッションを締めくくった。
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