新規事業はチャレンジャーの“治外法権”であれ
椿:遠山さんは現在、日本に戻ってこられているんですよね。

遠山:はい。シンガポールの仕事は2025年に後任へ引き継いでいます。次のフェーズは細胞を実際に培養してラボを動かす段階なので、それに相応しい技術的なリーダーを呼びたいと提案しました。また公募も3期目に入り、現在は紙コップの営業をやっていた女性社員がシンガポールに行っています。彼女は研究員ではありませんが、次のトレンドを探すアンテナとして活動しています。
椿:単に事業を立ち上げるだけでなく、次のリーダーを定義して連れてくる。サクセッションプラン(後継者育成計画)の立案までやりきるとは、社長同然の仕事ぶりですね。
製造業の新規事業は、IT系のようにリーンなやり方が通用しにくいイメージです。ただ、新規事業って“治外法権”のような雰囲気や制度をつくることだと私は思っていて。既存事業ではなかなかトライできないチャレンジングな活動も、新規事業という枠組みならトライできる。そういうところに意義があると感じます。
遠山:熱意を持ってやれる人が、椿さんのおっしゃる“治外法権”の枠を作りながら走った5年間だったと感じます。ただ、担当者の熱意に頼るだけでは、事業がグロースしづらかったり推進のスピードが落ちたりしてしまいます。そこを支える仕組みを作ることが、今の私のチャレンジですね。開発者が「これをやりたい」と思っても、手続きや契約、申請の壁で止まってしまうことは非常に多い。そこをスムーズに流すための、事業開発専用のマネジメント支援体制を作ろうとしています。
仕事を楽しみたいなら新規事業は最高の選択肢
椿:新規事業をやりたい人を増やすための工夫はどうされていますか?
遠山:あえて、私個人の存在感を出しすぎないように気をつけています。「遠山さんだからできたんでしょ」と思われてしまうと、後に続く人が減ってしまうので。

遠山:代わりに、社内の様々な部門が試行している制度・プログラムを活用しています。開発の部門だけで完結させず、社内広報を通じて他の部署の人が関心を持てる、そしてプロジェクトに参加できる仕組みが大切です。たとえば、人事部門が運営している「社内兼業・副業制度」を活用して、シンガポールのプロジェクトのメンバーを募集しました。法務部の担当者が兼業で1週間シンガポールに滞在して参加する、といった形です。
椿:それは良いですね。法務の方も現場を知ることで「なぜこの契約交渉が必要なのか」を理解できるようになりますし。
遠山:そうなんです。ある製造現場のマネージャーが、新規事業に兼業で参加した部下を見て「見違えるほど成長した」と喜んでくれたことがありました。普段の仕事では経験しづらい0→1の経験が、マインドセットを劇的に変えます。その変化が既存事業にもプラスの影響を与える「一石三鳥」のスパイラルを作りたいんです。
椿:最後になりますが、これから新規事業に挑戦しようとしている方、迷っている方へメッセージをお願いします。
遠山:新規事業は、正直に言ってめちゃくちゃ大変です。私も「絶対やるべきだよ!」と手放しでは言えません。ただ、一つだけ言えるのは「仕事を楽しくやりたいなら、新規事業は最高の選択肢だ」ということです。私の周りにいる新規事業の担当者は、皆さん本当に大変そうですが、同時にすごく楽しそうなんです。自分がやりたいことを形にし、自分で判断し、それが社会の役に立っていると実感できる。自分のスキルアップが、そのまま事業の推進力になる。毎日を楽しく、熱を持って働きたい。そう思う方には、ぜひ新規事業の扉を叩いてほしいなと思います。
椿:遠山さんの情熱と、それを支える東洋製罐グループさんの組織文化、どちらも本当に素敵でした。本日はありがとうございました!
