ピッチで心を掴まれたCEOに熱烈アプローチ
椿:出資先となったエビ・甲殻類の細胞培養開発に取り組む現地のスタートアップShiok Meats(シオック・ミーツ)とは、どのように出会ったのですか?

遠山:CEOのサンディア・スリラムさんのピッチを見て「これだ!」と思ったんです。それ以来、あらゆるイベントで彼女を必死に追いかけました。Facebookでトップファンバッジをもらうくらい熱心に(笑)。
椿:先方の反応はどうでしたか?
遠山:ダメ元でお声がけしたところ、すぐ交渉に乗っていただけました。後から聞くと、事業会社で最初に声をかけたのが当社だったそうです。当時はまだプレシリーズAの段階で、VCよりも早く事業会社としてアプローチしたのが私たちでした。日本の食品サプライチェーンに関わる100年企業が、海のものとも山のものともつかない段階で培養肉にコミットしたことは、彼女たちに大きな価値を感じてもらえたようです。
椿:そこから5年。培養肉の実用化には時間がかかると言われていますが、道のりはいかがでしたか?
遠山:PoCの設計をすることさえ難しかったです。食品なので食べてみないことには始まらないのですが、当時はテストサンプルさえ手に入らない状況でした。「産業全体でサンプルを作れる状態にしないと開発は進まない」と気づき、規制面で日本・シンガポール両政府と話し合いをしたり、プレイヤー同士をつないだりと、インフラ整備に奔走しました。
現在はようやく、シンガポール側に自前の細胞培養ラボを作る段階まで漕ぎ着けました。2020年から始めて、ここまで5年。確かに時間はかかっています。
失敗しても「やらなきゃよかった」と言わない経営陣
椿:5年という月日を、経営陣はどう見守っていたのですか?
遠山:この5年間でフードテックや培養肉のブームは一度去り「ディープテックの冬の時代」と言われるようになりました。ただ私は「ブームが終わってからが実践フェーズ」と経営陣に伝えていたんです。日本企業は、やることが明確になれば最後まで着実にやり遂げる力が強い。そこまで持っていくのが私の仕事だと。
椿:経営陣を安心させるための工夫はありましたか?
遠山:常に何がどう進んでいるか、現地に足を運んでもらったり、スタートアップの経営陣との面談を設けたりしながら報告し続けました。ただ、Shiok Meatsは経営環境の変化にともない別のスタートアップにM&Aされ、独立の会社としてはなくなってしまったんです。
椿:それは、ある種の“失敗”と捉えられてもおかしくない局面ですよね。
遠山:はい。私としては非常に悔しく、反省会に近い形で経営陣に報告しました。当初目指していた「スタートアップとしての成功」まで持っていけなかった、戦略パートナーとして力不足だったと。
でも、経営陣は「東洋製罐グループがシンガポールのフードテック業界にコミットしているという認知を得られた。その費用対効果を考えれば、投資は十分に回収できている。失敗ではない」と言ってくれたんです。
椿:「やらなきゃよかった」にしない。その言葉は、新規事業担当者にとって最高の救いですね。
遠山:そうなんです。「しっかり失敗して、得た学びを残す」。そうやって区切りをつけて責任を負ってくれる経営陣がいたからこそ、私たちはラボ投資という次のステップに進むことができました。
