海外勤務の願望がチャレンジを後押し
椿:遠山さんは、もうすぐで入社20年目を迎えるとお聞きしました。まずはこれまでのキャリアの歩みから教えていただけますか?
遠山:元々ガラスびんメーカーの東洋ガラス(東洋製罐グループ)に入社して、海外メーカー向けに技術支援や技術営業を担当していました。
椿:そうだったんですね。新規事業に関わるきっかけは何だったのでしょうか?
遠山:国内需要を見渡したとき、人口減少にともなう容器市場の縮小は避けられないという危機感がありました。そんな中、2019年にグループ横断の新規事業プロジェクト「OPEN UP! PROJECT」が始動したんです。その拠点をシンガポールに設置する話が出て、現地メンバーが公募されました。
椿:拠点立ち上げと同時にメンバーを公募するというのは思い切った施策ですね。なぜ、そこで手を挙げようと思われたのですか?
遠山:実はその前から、米国のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)に行かせてもらうなど、新しいことに取り組む準備は始めていました。公募の報せを聞いたときは「なぜシンガポールがハブなのか」という点にすごく興味を持ったんです。これまでのように出張ベースではなく、海外で生活しながら働くことにチャレンジしたいという思いもあり、手を挙げました。
椿:シンガポールではCVCのような活動をされていたんですよね。
遠山:それが、2019年の発足当初はスタートアップ投資の仕組みさえなかったんです。「現地に行った人が何をどうするか決めていく」という非常に大らかな体制で(笑)。投資をすることまでは考えていませんでした。
椿:現地でゼロから考え始めたと。
遠山:ええ。日本の事業会社が現地で新規事業を起こす際の“王道”は、自社の技術を持って行って採用先を探す、テクノロジープロバイダーのような動きです。たとえば、当社が開発した「MiraNeo(ミラネオ)超水分バリアフィルム」は、ガラスと同等の水分バリア性を誇ります。この技術を欧州市場に持って行き、MiraNeo超水分バリアフィルムを採用した太陽光発電パネル製品を現地のスタートアップや研究機関と共同開発している例があります。
このやり方は、自社の技術シーズが現地市場のニーズにハマれば強いですが、非常にピンポイントなマッチングになってしまいます。世界中からスタートアップが集まって「新しい市場で何ができるか」を議論しているエコシステムそのものに入り込まなければ、当てるべき技術もわかりません。そこで、エコシステムに入り込む手段としてスタートアップ投資を選びました。
3ヵ月で0から立ち上げたスタートアップ投資の仕組み
椿:培養肉(細胞性食品)の分野に着目した経緯が知りたいです。
遠山:まだ製品の開発段階にあった培養肉スタートアップに、我々容器メーカーが「どんな容器が必要ですか?」と聞いても「まだそれどころじゃない」と言われてしまいます。まずは出資という形でパートナーとして中に入り込みたいと考え、当時の経営陣に直談判しました。
椿:経営層からすれば「本当にそのフィールドで勝てるの?」「いくらで売れるの?」という不安が大きいですよね。そこをどう突破したのですか?
遠山:2020年1月に、OPEN UP! PROJECTの創設者である当時の常務二人がシンガポールまで出張に訪れたんです。まだ企画書もできていない段階でしたが、私は現場の状況と出資の必要性を二人に説明しました。後で聞いたところ、二人は帰りのフライトの機内で「これはやるしかないよね」と話し合って決めてくれたそうです。
動き出したは良いものの、組織の中にスタートアップ投資の仕組みが全くなかったので、そこからは大変でした。「リード投資家とは?」「タームシートとは?」という状態から、法務や経営企画を巻き込んで3ヵ月でプロセスを作り上げました。
椿:たった3ヵ月で。まさにスタートアップのようなスピード感ですね。
遠山:常務の一人が技術開発のトップ、もう一人が経営統括のトップだったことが大きかったです。必要な専門家を直々にアサインしてくれましたし、集まったメンバーも「うちの会社にはこういう活動が必要だと思っていた」と前向きな方ばかりでした。やらされている感がなく、トップダウンとボトムアップが噛み合った瞬間だったと思います。
