投資額の数十倍のシナジーも。CVCによる海外連携事例
Biz/Zine編集部・梶川(以下、梶川):今、グローバルのスタートアップ市場ではどのような領域に資金が集まり、注目されているのでしょうか。まずは前提として、シリコンバレー最前線で活動される御社の立ち位置からお伺いさせてください。
アニス・ウッザマン氏(以下、ウッザマン):現在、日本の大企業が単独で世界の最先端トレンドを追い、トップティアのスタートアップと直接連携体制を構築するのは至難の業となっています。そこで、現地のベンチャーキャピタルが間に入り、投資から業務提携、M&Aまでを伴走支援する「Venture Capital As A Service(VCaaS)」というモデルがグローバルで求められています。我々もこの枠組みのもと、約40ファンドを運用し、300件以上のマッチングを支援してきました。
梶川:グローバルな知見を活用して成果につながった、具体的な事例を教えていただけますか。
ウッザマン:自動車部品メーカーのアイシン様との取り組みが象徴的です。2018年に同社と共同で5,000万米ドル(日本円で約75億円)のCVCファンドを立ち上げました。このファンドを通じた具体的な成功例をご紹介します。
たとえば、カナダのAI企業、Element AIとの連携です。当時アイシン様は「部品製造ラインにおける不良品の歩留まり改善」という課題を抱えていました。そこでElement AIを紹介したところ、同社のエンジニアが日本の現場に入り込み、AIを用いて不良品の発生箇所を特定することに成功したのです。50万米ドル(日本円で約7,500万円)の投資でしたが、投資額の数十倍に上るコスト効率化につながりました。
2018年にCVCファンドをスタートして以来、8年間で40社を超えるスタートアップへ投資を実施し、グローバルスタートアップとの技術連携を大成功に収めることができました。
こうした成果を踏まえ、2026年2月にはアイシン様とのCVCファンドを総額約150億円へ拡大し、運用期間を2036年まで継続することを発表しました[1]。次のフェーズでは自動車産業の枠を超え、フィジカルAIやロボティクス、次世代エネルギー、宇宙といった挑戦的な分野に注力し、次世代の事業創出を加速させていく計画です。
日本企業のCVCが陥りがちな「3つの罠」
梶川:アイシンさんの成功例を伺いました。このように大きな成果を上げている企業がある一方で、現実にはなかなか結果を出せず、苦戦している日本企業のCVCも多いかと思います。そうした企業が陥りがちな“罠”は何だとお考えでしょうか。
ウッザマン:シリコンバレーから見ていると、大きく3つの罠が存在していると感じます。第1の罠は「国内だけで完結しようとしていること」です。技術系の有望なベンチャーの数を世界全体で見渡したとき、日本に存在するのは1%に満たない程度です。残りの99%に目を向けずに戦うのは、サンプリングの母数として少なすぎます。アイシン様のファンドを拡大し、長期間延長したのも、ターゲットの7〜8割がテクノロジーの進んだ欧米の企業だからです。最初からグローバルに網を張ることが成功の必須条件です。
梶川:なるほど。残りの2つの罠は何でしょうか。
ウッザマン:第2の罠は「グローバルなネットワークの欠如」です。世界のスタートアップの半分以上が米国、特にシリコンバレーに集中していますが、そこに強固な現地のネットワークを持っていなければ、本当に質の高いトップティアの企業には出会えません。
そして第3の罠が「現場担当者の提携スキルの不足」です。大企業の新規事業企画や既存事業のエースがCVC担当に任命されても、スタートアップと提携するための具体的なトレーニングを受けていないケースがほとんどです。どうすれば既存事業の枠を超え、ベンチャーとの連携に集中できるか。この課題を解決するためには、オープンイノベーションに特化したマインドセットとスキルを体系的に学ぶ仕組みを、組織内に実装することが不可欠です。
[1] 株式会社アイシン プレスリリース(2026年2月24日)「米ペガサスとアイシン、CVCファンドを約150億円へ拡大し2036年まで運用継続」
