捨てるべき価値の見極めも重要に
マーケティングビジョンの骨子となるのが、自社の商品・サービスにおける「捨てるべき価値」「持ち続けるべき価値」「新たに付加すべき価値」です。この取捨選択こそが、事業の長期的競争優位を生む源泉となります。

「捨てるべき価値」の戦略的選択
時代に合わなくなった価値提案、コストに見合わない価値提供、競合他社との消耗戦を招く価値は、勇気を持って捨てる判断が必要です。AppleのiPhoneが成功した要因の一つは、当時の携帯電話が持っていた複雑な機能の多くを捨て、通話・メッセージ・インターネット・アプリという機能に価値を集中させたことでした。
「持ち続けるべき価値」の再確認
普遍的なニーズに応える価値、企業の独自性を表現する価値、顧客ロイヤルティの基盤となる価値は、時代が変化しても継続して強化していく必要があります。ただし、その価値に安住せず、時代に合わせたアップデートをし続けることが重要です。
「新たに加えるべき価値」の創造
社会課題解決型の価値、個人の成長や自己実現を支援する価値、コミュニティやつながりの形成を促す価値など、現代の消費者が求める新しい価値の創造も重要です。
Netflix大成功の背景にも価値の取捨選択があった
価値の取捨選択を実践した代表例がNetflixです。同社は2007年時点で「エンターテインメントコンテンツをより手軽に楽しめる体験を提供する」という明確なビジョンの下、ストリーミングサービスを開始しました。DVDの郵送レンタル事業が順調だった当時、インターネット環境の改善やデバイスの普及を見据えて、収益性の不透明なストリーミング事業に大胆な投資を行ったのです。
さらに2013年からは「世界中の視聴者一人ひとりに最適なエンターテインメント体験を届ける」というビジョンの下、オリジナルコンテンツの制作に本格参入しました。既存のコンテンツをライセンスして配信するほうが、リスクは遥かに低く、投資回収の見通しも立てやすいはずです。しかし同社は、コンテンツの版権元との関係性に依存し続けることの長期的なリスクを見据え、オリジナルコンテンツへの大規模投資を実行しました。
現在のNetflixは、世界190ヵ国以上で2億人超の会員を抱える巨大プラットフォーマーに成長しています。短期的な収益最適化だけに注力していた場合、恐らくDVD郵送レンタル事業の延長線上で緩やかな成長にとどまっていたでしょう。マーケティングビジョンに基づいた長期的な価値創造の視点があったからこそ、市場を創造する側に立つことができたのです。
マーケティングビジョンは、単なる理念ではありません。それは、不確実な時代において事業の方向性を生活者・市場の目線から差し示し、組織を一つにまとめ、持続的な競争優位を構築するための経営の羅針盤です。次回は、このマーケティングビジョンで描いた価値を、実際の顧客体験に落とし込んで具現化し、事業成果につなげるための組織的な仕組み「CX Management Office(CXMO)」について解説します。
