経営学者・中川功一氏が説く、理論を武器にする方法
一般性ではなく、有用性で評価する
大きな会社の中で新事業に取り組む人にとっては、参考になる話だったのではないかと思います。その一方で、常にこのステップになるのか(他の形になる可能性は大いにあるはずだ)、日本以外で一般性を持ち得る理論なのか、ここは自分の経験とは違う……といった疑問を持たれる方も多いのではないかと思います。
そうした疑問にこたえるためには、この研究が拠って立つ学問的前提について解説する必要があるでしょう。
この研究は研究思想(※)として、M-GTAというものが採用されています。M-GTAとは何なのかはあえて深追いしませんが、これは平易に表現すれば「対象を観察した結果とはつまり、その分析対象に限定した範囲でのみ成り立つ理論なのである」という考え方です。あえて一般化の可能性を捨てることで、観察結果をなるべく豊かにそのまま科学的知見として活用しようという理念を持つ考え方です。そして、また別の研究結果を積み上げていけばより一般性の高い理論にたどり着けるというのがこうした研究の信念なのです。
※ 研究”思想”という呼び方は学術界から大いに反発があるものと思いますが、私はこれは方法論なのではなく、理論というものに向き合ううえでの基本的なものの考え方、前提のようなものだと考えます。M-GTAという概念の骨子は、方法にあるのではなく、思想にこそあると思うのです。
本論文で発見されたことがどれだけ一般性を持ちうるのかを問うことはナンセンス。ここで発見されたことは、この調査の範囲についてのみ成立しうる理論です。あらゆる個人や組織がこのステップ通りに当てはめたからといって成功するとは限りません。
そのため、皆さんはぜひ「この知見はどれだけ一般性を持つのか」とは問わずに、「このステップを自社の背景、ルールなどを考慮しながら置き換えてどう使えるか」を考えてください。そのような目線で見たとき、本論文の知見は実に多くのビジョン構築のヒントを私たちに与えてくれていることに気づけるはずです。



