生成AIの導入は進んだが、財務諸表に表れる成果はまだ見えない──多くの企業が抱えるもどかしさだ。2026年10月6日、日本オラクルは「Oracle AI Forum」を開催。基調講演に立った同社 取締役 執行役 社長の三澤智光氏は、3つの問いを軸に、AIを「実験」から「実行」へ進める道筋を示した。カギは、業務プロセスそのものをAIに担わせる「基幹系AI」。後半では、Fusion ERPの採用を発表した矢崎総業 執行役員 AI・デジタル室長 情報システム統轄室長の丹下博氏との対談をレポートする。
「支援系AI」から「基幹系AI」へ
日本オラクルの三澤氏がまず掲げたのは、3つの問いだ。AIを使って何を目指すのか。AIのためにデータ基盤をつくるのか、AIを使ってつくるのか。そして、AI・データ・ソブリンという課題にどう向き合うのか。
1つ目の問いに対し、三澤氏は2種類のAIを対比した。顧客への返信メールをAIで作成するような「支援系AI」は、一人ひとりの業務スピードを上げる。だが、個人の作業時間が減っても業務自体は変わらず、財務諸表に明確な数字として現れにくい。
「便利ではあるが、企業経営で考えると財務資料に非常に表しづらいAI投資になる」(三澤氏)
これに対し「基幹系AI」は、AIが顧客情報を取得し、注文履歴を確認し、契約ポリシーと照らし合わせて返金処理まで実行する。組織全体の処理能力、つまりキャパシティを増やすAIだ。100人の業務を80人で回せれば、残る20人を新たな業務へ振り向けられる。業務プロセスそのものが変わり、コストや売上に直結するため、KPIも明確になる。
AIに渡すべき「正しいデータ」と「行動規範」
三澤氏は、キャパシティを増やすAI導入は「社員を雇うことに等しい」と表現する。新入社員に業務知識と社内ルールを教えるように、AIにもモデル性能だけでなく2つのものを渡す必要がある。業務の意味や関係性、ルール、履歴を含む「正しいデータとビジネスコンテキスト」。そして、権限管理や職務分掌、監査、停止を可能にする「行動規範」だ。
ここで同社が強調するのが、ERPの設計思想の違いである。従来型ERPは、データモデルや権限、プロセスが業務領域ごとにバラバラだ。そのため多くの企業は、AI用のデータ基盤を別に構築し、データをコピーしてオントロジー(業務上の概念や関係性を体系化したもの)を整える必要がある。それでは基幹データを直接動かすAIは実現しにくく、支援系にとどまりがちだ。
一方、「Oracle Fusion Cloud Applications」や「NetSuite」は、調達から会計、原因分析までが統一データモデル上で動く。業務を理解し、適切な権限で安全に実行するAIを、同じシステム上ですぐに使えるという。行動規範についても、人間の承認を組み込む「Human in the Loop」や全アクションの監査証跡、異常時の自動停止などを多層的に組み込んでいる。
データ基盤は「AIに育てさせる」
2つ目の問いについて、三澤氏はレイクハウス(データレイクとDWHを統合した基盤)の課題を挙げた。データの移動やコピーに時間とコストがかかる。リアルタイムデータを活用できない。苦労してつくったオントロジーが、事業の変化とともに古びていく。
同社の答えは、参照したいデータの横に基盤を置き、データを動かさずにスモールスタートすることだ。さらに、AIの判断や人間の承認結果をフィードバックし、AI自身にオントロジーを継続的に育てさせる。この基盤を、Microsoft Azure、Google Cloud、AWS、OCIなどのマルチクラウドで提供する。
3つ目のソブリン(データ主権)については、AI、GPU、データ、クラウド基盤の4層で主権性を担保する必要があると説いた。同社は、パートナー企業が自社クラウドとして提供できる「Oracle Alloy」と、国内で24時間365日の運用を担う「ジャパンオペレーションセンター」を組み合わせて応える。
では、実際に企業はどこでつまずいているのか。基調講演から、矢崎総業 執行役員 AI・デジタル室長 情報システム統轄室長の丹下博氏と三澤氏の対談を紹介する。
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