深センが体現する、IoT時代の“イノベーションの都市型エコシステム”
私の母校でもあるイリノイ工科大学のInstitute of Design(以下、ID)の世界中に張り巡らされたOBネットワークを活用した今回のツアーは、在香港、深センに加え、台湾、日本の OBを中心に集まり、私もアジア地域のOBとしてツアーに参加しました。
無数の製造拠点が存在する深セン市
中国の景気減速がニュースなどで囁かれる中、全体として感じたのは香港―深センが、ハードウェア(モノ)のインターネット化、つまりIoT時代における オープンなイノベーションエコシステムを最も享受出来る一つのエコシステムの「中心地」となっていることでした。深センは “ハードウェアのシリコンバレー”と呼ばれ始めていますが、決して誇大広告ではありません。深センには、中華圏に集まる資本の大きさと深センが香港という金融拠点の都市にあること、中華圏の市場の大きさとつながれること、人材の誘致、そして、世界の工場を周辺エリアに抱える地理的な環境を活かしたユニークな生態系を有しています。世界は「シリコンバレーへの一極集中のイノベーション」から、イノベーション拠点としての都市および周辺に集まる人材、企業間の競争になっているという実事例です。イノベーションの担い手としては、「どのエコシステムを選択して世界で勝負するのか」という事業判断が重要になる時代だとも言えます。
コピー商品(山寨機)から、 オープンソースハードウェアのプラットフォームへ進化している深セン
Made in Chinaといえば、世界の闇市場で見つかるコピー商品のイメージが強い方が多いのではないでしょうか? “SonyならぬSomy”などの偽物の商品も有名ですよね。
香港の中心地に近接し、バスで1時間もあれば行くことができる立地の深セン。都市としての転換点は、5000人程度しか人が住んでいなかった地域だったのが、1980年に政府の経済特区に指定されたところから始まりました。当初は、製造拠点として整備され、“世界の工場”として工場が集積していきました。「山塞機(さんさいき)」と呼ばれるコピー商品の製造拠点として、製造部品の品揃え、量ともにすでに世界最大の場になっています。深センで製造されるコピー商品は、インド、アフリカなどの10億人近い人口を有するグローバルな「ローエンド商品市場」に流れてきた歴史もあり、中国を加えると莫大な市場との接点を持っているのもその強みとなっています。
一方で、今回のツアーを通じて見えてきたのが、「世界の工場」というイメージとは裏腹に、工場機能はすでに東莞(とうかん)などの内陸に移動し、深センはオープンソースハードウェアの「デザインの拠点」になっているということでした。