AIの進化が脅かす経営の前提──「人を管理する組織」からの根本的構造転換
ガバナンス改革の不全に加え、日本企業が直面しているもう一つの巨大な波が「AIの急速な進化」である。B&DX株式会社 代表取締役社長の安部慶喜氏は、テクノロジーの進展が経営や組織のあり方を根底から覆そうとしている現状に警鐘を鳴らす。
「欧米や中国の企業では、AI導入に伴う組織再編や構造改革が急速に進んでいます。日本でまだ表面化していないのは、変化が起きていないからではなく、単に遅れているだけです。これまでは『人を管理するための組織』があり、『組織を管理するための経営』が存在していましたが、その前提自体が崩れ去ろうとしています。大企業であっても大人数の部署という形態は消失していくでしょう」(安部氏)
AIによってビジネスモデルそのものが変容し、必要なスキルや人材構成が激変する中で、取締役会には従来の執行延長型の議論から脱却することが求められている。経済産業省の調査によれば、従来の日本企業の取締役会では、時間の過半が「個別の業務執行の報告や決定」に費やされ、中長期の経営戦略や将来像を巡る論議の比重は極めて低い。
安部氏は、これからの取締役に求められる役割として以下の3点を挙げる。
- 実効性の高い監督機能:執行から独立した立場で経営を実効的に監督するスキルと独立性
- 長期目線での将来構想:中長期の企業価値を見据え、自社のあり方を根本から再定義する構想力
- 変化を捉えた意思決定:月単位で進化するAI等の技術動向や市場変化を捉えたタイムリーな判断
「取締役は執行の監督にとどまらず、『変化を予測し、会社の未来を構想する』機能を果たさなければなりません。10年後ではなく今すぐ、AI時代における自社の経営や組織のあり方を取締役会で本格的に議論すべきなのです」(安部氏)
1社単独の限界を破る──「取締役エッジコンソーシアム」が目指す3つのEdgeと実践的アプローチ
しかしながら、めまぐるしく変化するビジネス環境や最新テクノロジー、複雑化する資本市場の要請に対し、1社あたりわずか10名前後の取締役だけで一から対応することは限界に達している。長年の歴史の中で形成された自社特有の固定観念を排し、1社単独でガバナンスの質を引き上げることは極めて困難である。
この「1社単独の限界」を突破するために設立されたのが、「取締役エッジコンソーシアム」である。伊藤氏の企業統治に関する理論・実践的知見と、B&DXの企業変革ノウハウを結集し、日本企業が相互に協力して取締役の質と取締役会の実効性を高めるプラットフォームを提供する。
【取締役エッジコンソーシアムが掲げる「3つのEdge」】
- 常に“最先端”の経営トレンドを取り入れて進化し続ける
- 企業間で協力して“強み”を出し合い、競争優位性を磨く
- “鋭く尖った”プロフェッショナルな取締役を生み出す
本コンソーシアムでは、「取締役育成研修」「最新の取締役課題カンファレンス」「企業間ワークショップ」「社外取締役紹介制度」「経験の場の提供」という5つの機能を段階的に提供していく予定である。
その第1弾として、2027年1月より「取締役育成研修」がスタートする。現役取締役および将来の取締役候補者を対象に、伊藤氏が主任講師を務め、「ファイナンス&アカウンティング」「サステナビリティ」「キャピタルアロケーション」「人的資本経営」「AI・DX」「IR・投資家対話」などを網羅した全6回(1回5時間)のプログラムを実施する。単なる座学の知識インプットにとどまらず、模擬取締役会(ロールプレイ)などを通じた実践力の習得に主眼が置かれている点が特徴だ。
「3年間で500社の参加を目指しています。企業の枠を超えて異業種の経営課題や失敗経験を共有し、議論を戦わせる『場』を提供することで、日本企業全体の実効性と国際競争力を根本から底上げしていきたいと考えています」と安部氏は語る。
形式的なガバナンス対応の時代は終焉を迎えた。AIという未曾有の構造変化の波を乗り越え、持続的な企業価値向上を実現するためには、取締役個々のプロフェッショナリズムと「実質」を伴う議論の場を創出することが、すべての日本企業に課された急務と言えるだろう。




