生成AIの急速な進化により、高度な知識や専門性へのアクセスがかつてないほど容易になった。一方で、企業や自治体においてAIをビジネスや業務の変革にまで結びつけられている組織は限られている。この「AI実装格差」はなぜ生まれるのか。チェンジホールディングスグループ(以下、チェンジHD)は2026年9月16日、メディア向け発表会を開催。本記事では、同社代表取締役兼執行役員社長の福留大士氏による講演内容を中心に、独自調査から見えてきた「AI不安の正体」と、企業や地域社会がAI時代を生き抜くための実践的な戦略をお届けする。福留氏は、単なるツールの導入にとどまらず、いかにAIを現場に実装し、人や組織の生産性を根底から変革していくかについて、豊富な事例とともに解説した。
個人と組織利用のギャップ──AI実装を阻む不安と格差
生成AIの登場により、ビジネス環境は劇的な変化の真っ只中にある。しかし、日本企業における現場でのAI活用は、期待されているほど進んでいないのが実情である。
チェンジHDが就労者1,559名を対象に実施した調査によれば、私生活でAIを利用したことがある人は79%に上る一方で、業務で利用したことがある人は68%にとどまった。このデータを個人単位でさらに深掘りすると、私生活でAIを利用している人のうち17.6%が「業務では一度も使ったことがない」と回答している。
この現状について、福留大士氏(以降、福留氏)は「日本人の個人ユーザーは世界でもトップクラスに多いが、企業での活用となるとランキングが一気に下がる」と指摘する。企業において、AIを活用して売上や利益の向上、資産効率の改善といった財務的なインパクトを出せている企業は、全体の1割にも満たないという。
さらに深刻なのは、AI活用に対する「意欲」と「実感」の大きなギャップだ。業務でAIを利用したことがある層のうち、72.9%が「今後もっと活用したい」と意欲を示しているにもかかわらず、「現在、業務でAIを十分に活用できている」と回答したのはわずか16.9%に過ぎない。
つまり、従業員個人はAIの価値を理解し、生活の中でその利便性を実感している。業務でも積極的に使いたいと望んでいるにもかかわらず、企業という組織の枠組みに入った途端、その活用が阻害されてしまう構造が存在しているのだ。従業員のポテンシャルを組織の成長につなげきれていないこの現状は、日本企業にとって大きな機会損失であると言わざるを得ない。
AI不安の正体は性能ではなく「DX基盤の未整備」にある
なぜ、企業におけるAI活用は進まないのか。調査結果から浮かび上がった最大の障壁は、AIの性能そのものへの不安ではなかった。
AI活用の拡大に不安を感じている人に対し、その理由を尋ねたところ、最も多かった回答は「情報漏洩や著作権・知的財産権の侵害などのリスク面」(49.1%)であった。これは、「AIが不確実や偏りのある回答を出すこと」(43.2%)や「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」といった、AI固有の技術的課題への懸念を上回っている。
「AIの利用が進まない原因は、個人ではなく組織あるいは職場の環境そのものにある」(福留氏)
セキュリティポリシーの未整備、利用に関する明確なルールの欠如、あるいは「責任の所在が不明確になる」といったガバナンス面の不安が、現場のAI活用にブレーキをかけているのである。つまり、AI不安の真の正体は、組織の「DX基盤の未整備」に他ならない。
この基盤整備の遅れは、明確な「格差」として社会に顕在化しつつある。業種別に見ると、情報通信業では業務でのAI利用未経験者が12.5%にとどまる一方、運輸業や生活関連サービス業、卸売・小売業、医療・福祉などの現場では4割から5割以上が未経験となっている。
また、地域間格差も極めて深刻だ。「AIを十分に活用できている」と回答した割合は、東京23区で29.3%に達するが、政令指定都市を除く地方部ではわずか8.2%と、実に3.6倍もの開きが生じている。
福留氏は、「このままでは都市部への一極集中が加速し、地域格差がさらに広がる。AIを地方に浸透させ、実装したパワーを各地域が享受できるようにすることが我々の勝負どころだ」と強い危機感を示した。
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