産業構造の転換に追いつけない、日本企業の悲惨な現状
100年ぶりとも言える経済構造の変革に、ほとんどの日本企業がついていけていない。従来の企業構造から脱却できず、それが“悲しい現実”として現れつつある。
小川氏は冒頭からそう語り、現在の日本企業の状況に憂慮を示す。あらゆる経済活動がそれぞれ特化領域に注力しつつ、オープンにつながり合うことで大きな価値を生み出す。そうした「エコシステム型」へと構造変化が生じているにも関わらず、未だ日本企業は自社ですべてを賄う「フルセット垂直統合型」から脱却できていないという。
「エコシステム型」では、原材料調達から核となる技術開発、設計、組み立てや販売など、あらゆるレイヤーで様々な企業が国境を越えてつながりあう。その中で大きな利益を得るのは、特定のレイヤーに特化し、その周辺に影響力を持つようになった企業だ。つまり、技術と知財に優り、上から下まで自社ですべてを行おうとした大企業より、小回りよく最新技術を短期間で開発し、オープンに展開した特化型の企業の方が強い。そうした企業が連携し合い、強みを倍化させていくエコシステム型に対して、大企業だとしても1社で太刀打ちできるはずがない。結果、液晶、DVD、スマートフォンなど様々な分野で日本企業の競争力が低下しているというわけだ。
2011年の世界の製造業の付加価値生産性は9100兆円で、20年前の2倍に上る。そうした急激な拡大の中で、かつて8割を占めていた日米欧のシェアは6割以下になり、アジアの付加価値が飛躍的に高まっている。それでも米国は約2割をキープし、落ち込んでいる西欧の中でもドイツだけはむしろシェアを伸ばしている。一方、日本は18%から11%と大きくシェアを落としているのだ。
小川氏は「米国は1990年代からソフトウェアの比重を高めて、新しい価値を想像できる産業構造へと自ら変革し、ドイツでもインダストリー4.0につながるエコシステム型への転換が始まっていた」と解説し、日本企業の構造改革の遅れを指摘する。そして、日本企業が再び製造業で隆盛する方法として「モノづくりの力を企業の付加価値生産性、経済的価値に結びつける仕組みづくりに真剣に取り組むべき」と語る。そのカギとなるのが、技術はもちろん、技術に価値を与える知財マネジメントだ。つまり、「大急ぎでグローバルなエコシステムという構造に適応した、ビジネスモデルや知的財産、契約マネジメントなどを作り直す必要がある」というわけだ。
たとえば、自社でコア技術を開発した日本企業とそれにキャッチアップしてきた台湾・韓国企業を比較すると、まずは国の法制度的な制約差が大きい。そして技術開発のための間接費が歴然と異なる。つまり、研究費を費やして開発した技術を特許としたとしても、最大でも5%程度という安価で調達できてしまうというわけだ。それでは、技術革新で新製品を登場させることができても、大量普及のステージになれば負けてしまう。