汎用AIが学習していないデータこそが価値の源泉
今回は、弁護士ドットコムにとって創業21年目で初のユーザーカンファレンスだ。開催理由は2つあるという。1つは創業20周年を機に、ユーザーへ感謝と同社の目指す未来を伝えるため。もう1つは、AIの急速な進展である。
「AIは私たちの仕事をディスラプトするのか、エンパワーメントするのか。正解のない時代だからこそ、皆さんと一緒に考える場をつくりたかった」(元榮氏)
元榮氏は2026年8月、ニューヨークやエジンバラなどを巡り、海外の機関投資家や有識者と意見を交わした。米英では弁護士が生成AIを積極活用し、リーガルAI企業が巨額の資金を集めてARR(年間経常収益)を急伸させているという。実際に、同社の株価は急騰し、市場で強く評価されている。
一方で影もある。汎用AIで作成した書面に実在しない判例を引用し、裁判所から処分を受ける事例が世界で相次ぐ。HAQQ Teamの調査によると、すでに2,000件を超えるという。
「法律の世界は誤りが絶対に許されない。汎用AIはその性質上、必ず間違う。何が正しいかを最終判断し、最終責任を担うことはAIにはできない。責任主体としての弁護士の価値は、むしろ高まっていく」(元榮氏)
では、同社のビジネスは汎用AI影響を受けるのか。元榮氏の答えは、独自データへの依拠だ。同社は日本の法律に関する自社のリーガルデータのみに基づいて回答を生成するよう、厳格な制御を進めている。
その資産は厚い。Q&Aサイト「みんなの法律相談」の相談データは約150万件、登録弁護士は3万2,000人以上。2015年開始の電子契約サービス「クラウドサイン」では5,000万件以上の契約データを獲得してきた。これに法令・判例・書籍などを加え、独自のナレッジデータベース「Legal Graph」にネットワーク化している。
「汎用AIが学習していないクローズドなデータが、我々のモートだ」と元榮氏は強調する。成果は数字にも表れている。2025年5月にリリースした統合型法務AIエージェント「LegalBrain エージェント」は、わずか4ヵ月でARRが3.8倍以上に伸びており、クラウドサイン事業の30倍の成長速度でグロースが進んでいる。
「ユーザーに使っていただくほど、フライホイール効果でプロダクトの価値が高まる。そんなエコシステムを強化していく」(元榮氏)
電子契約から「取引全体のAX」へ
データを起点に事業を広げる発想は、クラウドサインにも通じる。同社 執行役員 クラウドサイン事業本部長の根垣昂平氏は、約10年で国内売上シェアNo.1に成長した同サービスの次の構想を語った。
同社が見据えるのは、「捺印の電子化」ではなく、営業・購買・採用といった取引全体の体験の変革だ。取引とは「交渉から再取引までのすべてのプロセス」であり、その中心にあるのが契約書のデータだ。対価や支払条件、権利の帰属、責任範囲、解除の基準など、取引の重要情報が詰まっている。
第一歩として、2026年8月31日に「クラウドサイン 書類管理」をリリースし、契約書の検索や期限確認、台帳作成を効率化した。その先に、契約データを基盤に各システムと連携し、既存取引先への提案方針、発注先の精査、支払いとの突合までを先回りして自動化する「エージェンティック クラウドサイン」の構想を見据えている。
カンファレンスでは、クラウドサインとLegalBrain エージェントのプロダクト連携も明かされた。リサーチから契約書の作成・レビューまでをLegalBrain エージェントが、締結後の管理や請求をクラウドサインが担い、法務業務をシームレスにつなぐ。



