アカデミックから見た管理会計、背景にある「人・組織」への着目
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):藤野先生、本日はよろしくお願いいたします。まずは先生のご専門である「管理会計」という学術領域についてお聞かせください。
藤野雅史氏(以下、藤野):よろしくお願いいたします。私はこれまで、一貫してアカデミックの世界に身を置いてきました。研究の過程で実務の現場を覗いてみると、一つの経営数値や管理データが形作られるまでには、社内の様々な部署の、非常に多くの人間が関わっているという現実に直面しました。
私が研究者としてキャリアをスタートした当初、企業へこちらが「この数字を出してください」とお願いしても、すぐにぽっと出てくるわけではない。あっちの部署からデータを集め、こっちの組織と調整し、泥臭いコミュニケーションを重ねて初めて一つの数字が立ち上がってくる。当たり前のことかもしれませんが、このときに「数字が生まれる手前にある、組織や人間のダイナミックな動きをもっと知りたい」と強く感じたことが、私の研究の原点になりました。
日本大学経済学部教授、博士(商学)。一橋大学大学院商学研究科助手などを経て現職。日本原価計算研究学会常任理事。ヨーロッパの管理会計研究の拠点であるトゥルク大学(フィンランド)の客員研究員も務める。本書の第1章、第3章、第8章、終章などの執筆を担当。
栗原:管理会計の研究というと、やはり米国が世界をリードしてきたイメージが強いですが、学術的な潮流はどのように変遷してきたのでしょうか。
藤野:おっしゃるとおり、歴史的には米国が管理会計のトレンドを牽引してきました。標準原価計算に始まり、1990年代に登場したABC(活動基準原価計算)やBSC(バランスト・スコアカード)など、新しいマネジメントの「仕組み(システム)」を次々と生み出し、それを世界に普及させていくのが米国の得意なスタイルです。日本も長年、その最先端の技法をいかに導入するかという形で追随してきました。一方で、私が客観的に研究手法を学ぶために赴いた北欧のフィンランドをはじめとするヨーロッパの研究スタイルは、米国とは大きく趣が異なっていました。
ヨーロッパでの管理会計研究の主流は、米国のように巨大グローバル企業が次々と新しい仕組みを開発するアプローチよりも、会計という道具が「実際の組織や社会の中でどのように機能し、人々にどのような影響を与えるか」を定性的に見つめるものが多いのです。特にフィンランドなどでは、「アクションリサーチ」と呼ばれる手法が盛んでした。これは、研究者が組織の外側から客観的に観察するだけでなく、自ら企業の現場に深く入り込み、実務家とともに課題解決のための仕組みを提案・実践し、そのプロセスで組織や人間の行動がどう変わるかを追うアプローチです。大学院生が企業の現場に週の半分以上通い詰め、実質的に社員のような立場で変革の渦中に身を置くことも珍しくありません。
栗原:外から見るだけでなく、当事者として並走する研究スタイルですね。それがなぜ今、日本のFP&Aの議論において重要になってくるのでしょうか。
藤野:どんなに洗練された管理会計の仕組みを導入しても、それを運用する人々のリテラシーや組織のあり方が伴っていなければ、決して機能しないからです。最新のフレームワークをそのまま日本企業にコピーしようとしてもうまくいかないという実務的な反省が、近年多くのケースで共有されています。
今回、日本原価計算研究学会の創立50周年を機に、実務家と研究者がタッグを組んでFP&Aのプロジェクトを立ち上げたのも、「日本企業という独特の組織風土の中で、いかにして管理会計の専門職を機能させるか」という、仕組みと人の両面を解き明かす必要があったからです。
