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山崎徳之の「テクノロジービジネスの幻想とリアル」

未公開企業は事業展開で安易にピボットするな

【新連載 ゼロスタート山崎社長のコラム Vol.5】

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前々回はスタートアップ、前回は公開企業について見てみましたので、今回は未公開企業とバズワードの関係を考えてみましょう。未公開企業といってもさまざまですが、ここではいわゆる中小企業のケースについてです。中小企業にとっては、スタートアップのように事業計画だけで資金調達をするということはあまりありません。大企業との資本提携のような、純投資というより事業投資のようなケースはありますが。 一方で事業展開やプロモーションでバズワードを利用するケースはけっこうあるのです。

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ピボットこそが生き残りの条件

まず事業展開ですが、ずっと同じ事業だけでやっていくというのはなかなか大変なことです。中小企業にとっては特にそうだと思います。

大企業でも、市場が衰退していく産業では、事業転換が生き残りの条件ともいえます。 たとえば最近の好例としては富士フイルムがあります。 写真フイルムというわかりやすい衰退産業から、化粧品や食品をはじめとするヘルスケアの有望な事業への見事なピボット(事業の軸足転換)を果たしましたのはご存知ですね。 そこまでハッキリしたケースではないですが、パナソニックの白物家電から住宅などへのピボットなども良い例です。

実は、私が社長を務める会社も、何度かピボットを繰り返しているんです。

最初の頃(2006年ごろ)は、ソーシャル・ネットワーキングを活用するというポリシーのもと、SNSとレコメンドという2つのプロダクトからスタートしました。 ツイッター、Facebookが盛り上がった最初の頃は、ソーシャル・ネットワーキングがビジネスになると思いました。世の中に、SNS活用のビジネスはたくさん生まれましたが、収益化は難しかったのです。それで、SNSはあっさりと撤退しました。 レコメンドでも、それだけでは十分な収益を得るのが難しかったためレコメンドと相性の良いEC向け受託開発を始めたのです。そしてEC向け検索エンジンの提供へとシフトし、現在ではEC向け総合ソリューションの提供へと至っています。 ソーシャルからECへというピボットです。

何がピボットの成功要因?

現在の事業から事業転換しよう、もしくは事業拡大しようとするとき、何を根拠に次の事業を策定するかというとそこにはさまざまな要素があります。 もちろん大前提として既存事業をどれだけ活かせるかというのは重要です。 事業拡大の場合には既存事業とのシナジーというものは当然考えるでしょうし、事業転換においても会社のスタッフのスキルや経験が活かせる事業というのはメリットが大きいでしょう。

たとえば、マットレスで有名なエアウィーヴ。浅田真央さんや錦織圭さんなどのアスリートも愛用していて、人気ですよね。この会社、もともとは釣り糸や漁網(ぎょもう)のメーカーでした。 それが釣り糸が絡まると良いクッションになるかも、という発想でマットレスを作り、それが爆発的なヒットとなりなんと売上高にして100倍もの成長を遂げました。 これは、既存のリソースを活用するというケースでいちばんわかりやすいケース。 これは成功したピボットの例ですが、逆にピボットで失敗する例を見ていくと、実はバズワードが関係していることがよくあるのです。

バズワードでピボットすると失敗する

バズワードというのはある意味バブル状態なわけで、つまりそれは市場が大きい、もしくは大きいと錯覚している可能性が高いということです。 問題は、それがどの程度バブルか、つまり実態と乖離しているかは、その時はなかなかわかりづらいということです。 乖離が大きい場合、その市場が巨大というのは錯覚なわけで、にも関わらずそこに参入する企業が多いためいわゆるレッドオーシャン状態となってしまいます。 事業転換が失敗するケースが多い理由の一つがこれです。

さらにプロモーションについて考えてみます。

それまでと同じ製品やサービスを提供しているのに、バズワードに乗せて新しく見せるという例は、前回までも何度もしてきましたよね。

バズワードの領域に事業転換する場合にはリスクも伴いますが、これまでの事業をバズワードに言い換えてプロモーションするだけならリスクはほとんどないというのもこうしたケースが多い理由かもしれません。 もちろん流行しているキーワードだからアピールに使うというのはわかりやすい理由ですが、そもそも「曖昧なものの方がバズワードになりやすい」という別のポイントもあります。 そもそもバズワードになるキーワードというのは、それを広める人がいるからバズワードになるのですが、でもそうした人たちのほとんどは、実はその内容を正しく理解していないことが良くあります。 それが単なる個人間の口コミならいいですが、メディアに記事を乗せる識者や記者ですらそうした傾向があります。

「バズワードが曖昧だと記事として書きやすい」ため、それが広まりやすいということです。 たとえば最近でいうと「クラウド」や「人工知能」などは良い例です。 特にクラウドなどは、何がクラウドの定義なのかというと大変曖昧なため、理解が浅くても記事が書きやすかったのではないでしょうか。 クラウドの初期の頃は、それまでのASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)やサーバー集中管理型のサービスと、クラウドはどう違うかという議論はあったのですが、だんだんと曖昧になってきて、「ネットワーク・コンピューティング=クラウドでいいじゃん!」というノリになってきました。今では単なるクラサバ(クライアント・サーバーシステム)ですら、ローカルで処理をしていない場合はクラウドと呼ばれるケースがあります。

バズワード化で曖昧になるIT用語

つまり、バズワードというのは「流行している」という特徴に加えて「曖昧になりがち」という、ある意味二重にプロモーションに使われやすい場合が多いのです。 たとえば膨大なマーケティングデータを分析するというサービスを提供しているケースにおいて、そのプロモーションがデータマイニング→機械学習→人工知能と変化していたとします。 やっていることがずっと同じならずっとデータマイニングでも良いはずですが、なんで変わるかというと今更データマイニングではウケないからです。

あ、ビッグデータもそうですね。ビッグデータ処理や分析も当初は、それまでのBIやDWHなどの分析とは違うもの。より大規模で分散型で非構造データもという議論があったのですが、今やデータ分析やデータ活用はすべてビッグデータで済まされています。

IT系メディアから始まり、新聞や週刊誌などの一般雑誌にそれらのバズワードが使われだすと、ある意味で「市民権を得た」ことでもあり、同時に定義が曖昧になることでもあります。 バズワードになっているときの定義が曖昧なためにそれでも通用してしまうのです。 まあこれは前回の公開企業におけるIR同様、どこまでがOKでどこからがNGかというのは難しいですし、プロモーションというものはそもそもそういう錯覚を利用するという側面もあるため、バズワードの活用なのか利用なのか、なかなか線引きは難しいといえます。 あとはどこまで自社の事業に矜持を持つかでしょうか。

次回は個別のケースではなく、メディアと企業のバズワードにおける相互依存について考えてみます。

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山崎 徳之(ヤマザキ ノリユキ)

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