なぜシャープがロボットの新規事業を始めたのか
シャープが開発した、モバイル型ロボット「ロボホン」をご存じだろうか。
「ロボホン」は、会話はもちろん、歌・ダンス、見守り、プログラミングなど、様々な形でコミュニケーションを取れる。アプリケーションや機能は、専用のクラウドサービスを通して毎月アップデートされ、コミュニケーションの内容や動作の種類などが拡充していく。着せ替えパーツやキャリングケースなどのアクセサリが充実しており、ユーザーごとにカスタマイズできるのも大きな特徴だ。

2016年5月に発売以来、40代以上の女性を中心にユーザーが増加。景井氏によれば、家族やパートナーのように「ロボホン」を可愛がり、一緒に出かけた様子などをSNSに投稿しているユーザーも多く、ファンコミュニティが形成されているという。近年はtoCのみならず、企業や自治体へのtoB展開も進めている。
そもそもなぜ、シャープがロボットを開発するにいたったのか。その理由として景井氏が挙げたのは、「スマートフォン市場の飽和」だ。2013年、スマートフォンの普及率が6割を超えたことで、スマートフォン以外の事業を立ち上げる必要を感じたのだという。
その新しい事業を構想するにあたり、核となった想いが2つあった。
1つ目は、「新しいスマートフォンを作りたい」というもの。テンキーが画面タッチに切り替わったように、UIを変えることで従来とは異なるスマートフォンを開発しようと志した。
2つ目は、「売り切りのビジネスモデルを変革したい」というもの。収益の安定化も見据え、サブスクリプション型のビジネスモデルを試したいと考えていたという。

事業の可能性を自社アセットから発掘
様々な事業の可能性が考えられる中、景井氏ら事業開発チームは、音声対話UIという自社アセットに注目した。AppleのSiriやGoogleの音声認識機能がまだなかった時代、シャープは独自の音声対話UIを開発し、ロボット掃除機の「COCOROBO」やスマートフォンAIアシスタント機能「エモパー」に実装していたのだ。
その中で景井氏らは、音声対話UIがユーザーと機器の関係を変えうることを発見。修理によって外装がきれいになった「ココロボ」に、ユーザーから「私の『ココロボ』ではない」との苦情が寄せられた事例があり、「従来の商品とは異なり、ユーザーと機器の間に“愛着”が生まれていると感じた」という。
こうして、音声対話UIを土台に、単なるガジェットではなく、情緒的な楽しさを提供する“ロボット電話”の発想が生まれてきたのだ。
