AIは“認知革命級”に進化した
Biz/Zine編集部 栗原(以下、栗原):まず大野さんのご経歴をご紹介いただけますか。
大野峻典氏(以下、大野):これまで10年ほど「AIをいかに事業化するか」をテーマに、キャリアを歩んできました。最初にAIに触れたのは大学の研究室です。ちょうど、当時はディープラーニングの技術がブレイクスルーを迎え、画像認識を中心にAIの精度が飛躍的に向上している時期でした。社会的にも大きな注目を集めていたAIに魅了された私は、ディープラーニングの研究に取り組むとともに、企業で必要とされるAIモデルの研究開発を請け負うAIスタートアップを立ち上げました。その後、今から5年前にM&AによりDMMグループに売却。グループ子会社の代表を務めたのちに退任し、現在代表を務めているAlgomaticを新たに設立しました。
Algomaticは「AI革命で人々を幸せにする」をミッションに掲げています。営業AIエージェント「アポドリ」などの複数のAIエージェントサービスを同時展開しており、AIネイティブなサービスの提供を通じて社会、企業、人の幸せに貢献することを目指しています。
栗原:AIと共にキャリアを築いてきた大野さんにとって、昨今の生成AIをめぐる状況はどう見えていますか。
大野:私は、LLM(大規模言語モデル)はAIの認知革命だと思っています。認知革命とは、紀元前7万年頃からホモ・サピエンスに起こったとされる認知的、言語的な変化のことです。2016年に日本で刊行されベストセラーとなったユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史』(河出書房新社)でも紹介されています。
書籍で定義される「認知革命」を端的に言えば、人類の祖先であるホモ・サピエンスが言語を媒介して「概念」を扱えるようになったことを指しています。『サピエンス全史』では「虚構」という言葉で説明されていますね。紀元前7万年頃にはネアンデルタール人やホモ・エレクトスといった、ホモ・サピエンス以外の人類種も存在していましたが絶滅したとされています。
言語を通して「概念」を扱えるようになった認知革命こそ、、ホモ・サピエンスだけが種を存続することができた要因として有力だとされています。たとえば、現在の人類は「りんご」や「本」といった目に見える物体だけでなく、「国家」や「資本主義」や「法」といった目には見えない概念を言語で表現し、それを広く共有しています。そうした概念はホモ・サピエンスの個体間の大規模な協力や、複雑な思考を可能にし、他の種よりも大きな組織や生産力を築く礎になりました。

翻って、LLMの特異な点は「言語を媒介して、人のような複雑な思考を模せる」という点にあります。これは、言語の獲得によって概念を扱えるようになり、結果として高度な文明を築くことにまでつながった、ホモ・サピエンスの認知革命と重なります。おそらく、この先、従来は人でなければ解決できなかった問題をAIがどんどん解決できるようになるでしょう。今、私たちに訪れているのは「人類2度目の認知革命」なのではないかというのが私の考えです。