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「現場と経営」による新規事業の成功戦略

もう「リーンごっこ」はやめよう。日本企業の“新規事業失敗史”から学ぶ、成功への最短ルート

第1回

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 新規事業の重要性が叫ばれるなか、その創造に試行錯誤する企業が増えています。しかし、日本企業の新規事業開発は数多くの壁に直面しており、その1つが「現場と経営のギャップ」です。本連載では、新たな事業や産業の創造を支援するドリームインキュベータの知見をもとに、この「ギャップ」を埋めるための具体的な取り組みを考察します。全4回にわたり「現場と経営のギャップ」の実態を明らかにする本連載。第1回となる本稿では、新規事業の現在地と、連載の全体像をご説明します。

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現場が抱える新規事業の「根本的な課題」

 「もっとおもしろい新規事業はないの?」。担当役員からこう問われた事業開発担当者が、数週間後にも同じ質問を受ける。検討を重ねて提案しても「さらに検討が必要だ」と言われ続ける。こんな経験はないでしょうか。

 現場の事業開発担当者が日々直面する課題は、適切な調査手法の選定、ケイパビリティの不足、新たなネットワークの構築など多岐にわたります。しかし、私がこれまで数多くの企業の新規事業開発を支援してきた経験から、最も深刻なのは、現場も経営も「答えのない問題」に取り組んでいるという状況です。冒頭のやり取りは、まさにそれを象徴しています。

 現場がどれほど検討を重ねた新規事業を提案しても、経営側に明確な評価基準が存在しないケースが少なくありません。提案の良し悪しを判断する軸が曖昧なため、些末な指摘がなされる一方で、最終的な意思決定は先送りされ続けます。この状況下で、現場は「答えのない問い」に挑み続けるような徒労感に苛まれてしまうのです。

 一方で、経営陣も株主からの期待に応え、株式市場や社会にインパクトのあるメッセージを発信しなくてはなりません。求められるのは、規模が大きく、時間軸も明確で、将来性のある事業です。特に上場企業は成長ストーリーを示す責務を負うため、既存事業の成長だけでなく、新規事業による収益拡大を約束する必要に迫られます

 「新規事業による収益拡大」という目標設定自体は正しくとも、いざ具体的な検討に入ると、その高い目標と、不確実な新規事業の現実との間に大きなギャップが生まれます。現場からすれば「3年で100億円規模の事業を立ち上げろ」と言われても、そもそもその市場が立ち上がるかすら見えない状況で、いかに確実性や将来性を示せばよいのか、途方に暮れてしまうのです。

新規事業も結果が求められる時代に

 昨今の状況として見逃せないのが、アクティビスト(物言う株主)の台頭により、新規事業であっても結果が強く求められるようになったことです。

 株式市場からの利益最大化への圧力が高まると、収益化までの時間軸が長く不確実な新規事業は、既存事業を上回る将来性が見込めない限り、優先的な投資対象になりにくくなります。その結果、現場の事業開発者に対し、経営から事業化の時間軸や規模、収益性に関して、より高い要求が突きつけられるケースが増えています。

 従来は「チャレンジが大事」「組織風土の変革が大切」とも言われた新規事業。しかし、もはやそれだけでは通用しません。大企業が新規事業開発に取り組み始めてから一定の時間が経ち、率直に言って「そろそろ成果を出してほしい」と見なされるフェーズに入ったのです。

 では、話題の生成AIが解決策になるかと言えば、私は懐疑的です。確かに情報収集や資料作成のハードルは劇的に下がりました。しかし、前述の通り、新規事業の難しさは「答えがない」点にあります。これでは生成AIに「何を聞けばいいか」「どのような事業を評価すべきか」という、肝心な問いそのものを立てられません。どのような課題を設定し、経営側は何に対する答えを求めているのか。この根本的な問いは、AIではなく人間が向き合うべき仕事です。

 実際、多くの企業が「新規事業のアイデアを100個出して」と生成AIに依頼しているのではないでしょうか。そのほとんどが結実しないのは、前提となる「何が正解か」という評価軸を定めていないからです。この軸が定まらない限り、問題は永遠に解決しないでしょう。

 では、なぜ日本企業は新規事業開発で苦しみ続けてきたのか。まずはその歴史を振り返ります。日本企業の新規事業への取り組みの変遷は、現在を「3周目」として下図のように整理できます。次のページでは1周目から順に振り返ってみましょう。

次のページ
日本企業の新規事業「失敗の歴史」

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この記事の著者

田代 雅明(タシロ マサアキ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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