日本人の弱点はフレームワークを「描く、創る」ができないこと
では、本来イノベーション力が高いはずの日本人が、実際にはイノベーションで世界をリードしているとはいえないのはなぜか。1つの理由は、イノベーションプロセスを知らないからであるが、もう1つの克服すべき点として、濱口氏はフレームワークを挙げる。ここでいうフレームワークとは、バイアスを壊すアイデアを発展させ、新しいモデルを生み出す構想力を指す。
日本人はフレームワークが弱すぎる。欧米人は、大きな構想、フレームワークを描くことが得意だが、日本人は下手だ。たとえば、日本人の若者が新しいアイデアとして出してくるのは、フェイスブックの新しいアプリなど既存のプラットフォームにのったものばかりだ
フレームワークを整理すると、目的、範囲、切り口に分けられる。目的が高くなればフレームワーク自体も大きくなる。範囲の大小や切り口でもフレームワークは変わる。
範囲が変わればフレームワークも変わる例
範囲を動かす例として、図表9を見てみよう。範囲は、左から右へ進むほど狭くなる。一番右の範囲の取り方では、ボートに乗った人が万歳をして楽しんでいるように見える。範囲をもう少し広げた真ん中の図を見ると、実はその人は滝つぼの手前にいて、助けを求めていることが分かる。もっと範囲を広くした左になると、人が見えなくなる。
濱口氏は、1つのフレームに固着せず、作り続け、動かし続けていく作業(フレームワーキング)が重要だという。日本人はとかく、目的を低く、範囲を狭く設定しがちなので、フレームワーキング力の強化は必須の課題だ。常に自在に動かすことで、新たなバイアスやそれを壊す糸口が見え、継続的な進化が可能になる。
まとめ
- アイデアの背後にある理由を探り、そこにあるバイアスや先入観を見つけて壊す。
- アイデアが生まれているパターンを探る際、「見えないゴリラ」に注意する。(第1回p.2 「専門家に見えないゴリラの話」参照)
- 必ず視覚化する。表現されていないもの、形のないものは壊せない。
- BTCの1つ1つを手がけ、最終的に全体的につなげる。
- フレームワークを軽視しない。常にフレームワークを動かしながら新たな方向へシフトしていく。
最後に、濱口氏は次のように述べて参加者にエールを送った。
アイデアの背後にある理由を見つけて、それを壊していく。壊していくためには、発想の仕組みを包括的に理解しながらも、ある瞬間には複雑化を避けてシンプリファイしなくてはならない。このイノベーションを生み出しているプロセスは、日本人の発想法にひじょうに合致している。実際、たとえばアメリカ人とこのプロセスを一緒にやろうとすると、日本人より時間がかかる。どうしてもアイデアに振ってしまいがちだ。しかし、日本人がトレーニングされると、ほんとうに心地よく、抽象概念を構造化することができる。自信を持ちましょう!