アイデア出しに終わらせず、“クールファクター”を探れ
ブレストの改善例として、濱口氏は、世界的に有名なデザインイノベーション会社IDEOに招かれて同社のブレストに参加した経験を語った。
もともと、IDEOは独自のすばらしいブレストのプロセスを持っている。他人のアイデアを否定しない、アイデアにアイデアを乗せるといった基本原則があり、優秀な学生や様々な専門家が集まり、1時間に100個ほどアイデアを出しあう。プロトタイプ作りが得意な会社としても知られ、アイデアが決まれば、間髪を入れずにプロトタイプに移り、イノベーションを生み出していると言われている。
濱口氏は、社長のティム・ブラウン氏と共に、リアルプロジェクトのブレストに参加した。緊張感のあるミーティングのなか、1人のファシリテーターのもとで7人がアイデアをどんどん作っていく。50分ほど経ったところで、出てきた100個のアイデアから、もっともクールだと思うアイデア3つに投票し、ベストなアイデアを選ぶ、といった流れでブレストが進んでいた。
この時点で、濱口氏は次のように指摘したという。
このブレストで、だれもプロトタイプを作ろうと言っていないということは、どのアイデアも面白くないってことだろう? 面白くないアイデアのなかで一番ましなものを選んでいるだけではないか
続けて、参加者全員にもう一度クールなアイデアを選び、それがなぜクールだと考えるのか、「切り口」を3つ書いてほしいと頼んだ。
とにかく、なぜクールなのかを教えてと言った。ふつう男性向けのものを女性用にしたからか、20個のパーツを2個にしたからか?こうすると、3×7=21の“クールファクター”が手に入る。とにかく、なぜクールなのかを見て、アイデアは全然気にしない
たとえば、2つのクールファクターを組み合わせると、もっと面白いアイデアが生まれる。こんなアイデアがあるではないかと言うと、みんな『すごい、すごい』と喜ぶ。すごいアイデアが出たから、今日はこれで終わりにしてビールを飲みに行こう、となる
しかし、濱口氏はそこでは終わらせなかった。IDEOのメンバーが皆、クールで面白いと思うというアイデアの背景には、彼らの好む「発想パターン」がある。社外の濱口氏から見れば、そのパターン自体もバイアスだ。
その発想パターンの中にある先入観をモデル化して、彼らのバイアスを壊してから、もう一度、アイデアを見せた。そうすると、彼らは『何それ、聞いたことがない』と反応する。彼らがクールだと思っているモデルを壊して、違うアイデアを提案したので当然だ