震災後の東北でユヌス博士の講演をきっかけに、地域内外から社会起業家が生まれた
若い社会起業家によるパネルディスカッションのモデレーターは、東北大学大学院経済学研究科の大滝精一教授がつとめた。東北大学はユヌス氏に2012年に名誉博士の学位を授与し、その際にユヌス氏に講演を頼んだという。その当時、震災後の被災地ではユヌス氏の講演を依頼してソーシャル・ビジネスを啓蒙するにはまだ早いという雰囲気があったが、その後多くの社会起業家が地元発・域外発で生まれたと話す。現在、大滝教授は、東北未来創造イニシアティブ代表発起人、地域創造基金さなぶり理事長などの仕事を通して、東北地域復興に尽力している。
パネリストの一人目は、1993年東京生まれの牧浦土雅氏。この日はインドネシアから帰国したばかりだと語った。牧浦氏は2012年、17歳の時に行ったルワンダで農村には農作物が余って捨てられている実態を知って、難民流入により食糧不足への対応を苦慮していた国連とともにジョイントベンチャーを立ち上げたという経験を持つ。現在は、フィリピンとインドネシアで教育支援を行うなど、貧しい農村部の公立校の教育支援活動にも携わっている。教育事業の成果は利用者数、サービス利用者の大学進学率という短期的成果ではなく、その後どんな人になったかというロングタームで見ていく必要があると語った。
パネリストの二人目は、RBCコンサルタント株式会社の33歳の杉山孔太氏。自己紹介は「父親が開発した黒い粉を川に撒くため、世界中を飛びまわっています」という言葉から始まった。この黒い粉はバクチャーというもの。環境中の微生物と接触することで、微生物の分解作用を急速活性させる働きがある。これを川や海にまくと水質が浄化され、土にまくと土壌が改善することから、国連の専門機関UNIDOにも登録されている。いったん環境問題が発生した場合、人間が活動をやめて時が経てば自浄作用によって環境は元に戻る。しかし、全ての人が活動をやめて待つことはできないため、自浄作用を活性化することが有効だ。そのために活動を続けている。またこのバクチャーはアワビの養殖等にも役立つことからソーシャル・ビジネスとしても注目されている。杉山氏は「現在、想像以上に地球環境は悪化している。しかし、実はそれを解決する簡単な技術はもうすでにある。人々がそれに気づいておらず、諦めているだけなのだ」と問題を指摘した。