数字以上に大きい「労働力人口の減少」が生産現場へ与える、4つのインパクトとは?
日本の生産現場において、デジタル技術を活用することによる「働き方改革」や「生産性の向上」などに大きな注目が集まっているが、その背景として労働力人口の減少が挙げられる。(図表1)
2018年現在の日本の労働力人口は約6,740万人であるが、2030年には約40万人減少し、約6,700万人になると予想されている。この労働力人口減少は日本の経済にとって大きな影響を与えるが、その数字に潜む生産現場へのインパクトは数字以上に大きい。
生産現場へのインパクトとして、まず、熟年工の知識や知恵の喪失は生産現場に大きなインパクトを与えるだろう。多くの熟年工が定年を迎え始めている中、彼らが長年の経験で蓄積してきた生産現場での知識や知恵はドキュメント化されておらず、現場を離れると同時に消えていくことになる。特に日本の生産現場では作業プロセスのマニュアル化が進んでいないことが多く、熟年工が退職することで非効率な作業プロセスの増加やトラブル時の対応が難航するなどの問題が多発する可能性がある。
次に、都市圏よりも早く進んでいる地方における労働力人口の減少も大きな課題である。日本のメーカーは地方に大規模な工場を構えており、最近では外国人労働者が地方での就業を拒むなど労働力の確保が厳しくなってきている。国の調査によると、2010年から2030年の労働人口減少率は青森市、秋田市、長崎市、高知市では-20%以上と予想されており、最も労働力人口減少率が低かった東京都新宿区の-1.9%を大きく上回る。*1
また生産現場へのインパクトとして、効率化のための新しいアイディア創出機会の喪失も想定される。今までは熟年工と若年作業者が力を合わせ試行錯誤しながら、生産現場の効率化のための様々なアイディアを生み出してきた。ただ、熟年工は今後定年を迎えていき、若年作業者が減っていく中、作業プロセスを効率化するためのアイディア出しの機会は減り、新たな技術の開発を行う作業者も減少傾向となるだろう。
最後に、効率化が追い付かないことによる生産性の低下も大きな問題となってくる。労働力の減少が進んでいる中で、同じ生産量を維持するためには、作業者の効率を上げる以外に方法は存在しない。今まで以上の効率化を進めなければ、効率化に成功している企業に取引をもっていかれることになる。生産性を上げるための施策は既に各企業で進められているが、生産性の低下を想定して取り組まなければ失敗する。
最近では、経済産業省が「コネクテッド・インダストリーズ税制(IoT税制)」を推進するなど、IoT関連の設備投資に国も後押しを始めている。国全体の成長を維持しつづけるために、デジタルを活用した取り組みがより一層求められている。