インフラから小売業まで、各用途で導入が始まった“映像解析AI”
映像解析AIを活用して企業のDXを加速した事例としては、どのようなものがあるのだろうか。井手氏は講演の冒頭で、フューチャースタンダードが支援した様々な事例を紹介した。
まずは屋外の交通量調査の技術を活用した事例である。交通量調査は現在、人の手でカウントして行うのが一般的である。しかし映像解析AIを活用すれば、映像に映っている車や人を識別してカウントを行うことができる。人手で行っていた場合とは違い、長時間の計測を低コストで行うことができるのだ。
フューチャースタンダードはこの実証実験を、長野市と信越地方を中心に電気通信工事を請け負うTOSYSと共同で実施。映像を活用するため、街灯がなく暗い夜間は捕捉の精度が落ちることが認められたが、日中では人手との誤差が1%以内と非常に小さいこともわかった。この技術を活用し、商業施設や大型看板などの前を通過する人の流れを測定して、そこにどのくらいのマーケティング的価値が見込めるかを予測することも可能である。
侵入検知に関して映像解析AIを活用することもできる。これはフューチャースタンダードが東急電鉄において、東急テクノシステム、理経とともに実証実験を行っているもので、踏切内への人や車の立ち入りを映像で検知する。東急電鉄は踏切内の障害物をレーザー光で立体的に把握する3Dライダー装置を積極的に設置しているが、3Dライダー装置は精度の高いものになると1,000万円を超えてくる。踏切は数多くあるので、コスト的な難点がある。それを映像で行うことができればコストが10分の1以下で済むというのだ。さらに、レーダーで把握できなかった「それが人なのか、飛んできたゴミ袋なのか」という判別も、映像を車掌室等に送ることでクリアすることができる。
ソフトバンクとは、5Gを活用したリアルタイムでの動線トラッキングのデモを展示した。これは小売業におけるユースケースを想定したもので、室内4ヵ所に設置したカメラ映像で人の動線をリアルタイムに解析する。同時に映像から性別や年齢情報を推測することもできる。これを活用すると、20代の女性客が店舗の中をどういった動線で移動し、どのくらいの時間滞在したかなどが把握でき、店舗内のレイアウトの工夫等に活かせる。また工場内で熟練工と不慣れな人で作業効率が大きく違った場合、両者の行動の違いを分析できるようにもなるという。
顔の映像とデジタルサイネージをリンクした活用方法もできる。映像からリアルタイムに年齢や性別を推測し、それに合わせて適切な広告をデジタルサイネージに投影する。それをさらに映像の内容と突き合わせることで、何時何分に投影された映像を、何人の女性が見ていたかなどと分析することも可能になるという。