『デザインシンキング・プレイブック デジタル化時代のビジネス課題を今すぐ解決する』は、ビジネスモデルの開発から商品企画、マーケティング、販売後のユーザー体験までをも一貫して顧客中心主義で設計する考え方であるデザイン思考の実践術について解説した1冊。
経営や事業開発において持て囃されるデザイン思考は、多くのビジネスパーソンにとって不可欠の考え方になってきている。しかし、適切に活用できているかというと自信がない人も多いだろう。アイデアを生み出し、組織を変革し、さらに将来をデザインするためにも役立つデザイン思考をしっかり活用するにはどうしたらいいのか。
本書はそうした悩みにスタンフォード大教授などの専門家が応えたプレイブック(戦術書)である。まず、「デザイン思考に関する本を書く」というプロジェクトを想定し、その本のターゲット層に当てはまる「デザイン思考を実行しているペルソナ」が設計される。3人のペルソナは読者の分身として随所に登場し、理解を助けてくれるだろう。
こうしたペルソナは読者がユーザーのニーズや課題を捉えるために必須のツールとなるため、最初にその設計方法が説明される。なぜペルソナが必要なのかというと、デザイン思考がユーザーへの共感から始まるからだ。その共感があってこそ優れたアイデアを生み出し、ターゲットに受け入れられるプロダクトを開発できる。アイデアの発想法やプロダクトのプロトタイプ作成についても本書で解説されている。
また、デザイン思考は組織変革にも役立てることができる。クリエイティブな環境を作り、異なる部署や異なる分野の人材を連携させてチームを結成できれば、事業の可能性はより広がる。最適な環境やチームの作り方で課題があるなら、本書が解決の糸口になるだろう。そして様々な背景を持つ人が集まれば、当然それを取り持つファシリテーターが重要となる。ワークショップを行う際の注意点についても解説されているので、人は集まったがアイデアが生まれない、といった状況に対策を立てられるはずだ。
本書では最後に将来をデザインするための方法論が語られる。特にデジタルトランスフォーメーションが当たり前になっていく社会において、「明日の顧客はロボットかもしれない」という事実を受け入れることが大事だという。実際、ロボットと人間がやり取りする機会は増えているが、両社の共存関係を反映したデザインとはどういうものなのか。著者はデザインシンキングと、システムを中心に捉えるシステムシンキングという2つの手法で新しいデザイン基準を解説していく。
本書はプレイブックであるため、全体を通して実践しながら自分の体験として読み進めなければ内容を理解するのが難しい面もあるかもしれない。しかし、そのための補助線は巧みで、読んで、実践して、悩んだらまた読んで、と繰り返すことでデザインシンキングが身についていくだろう。新しい時代で新しいビジネスに取り組むために、本書を活用してもらいたい。
目次
1. デザインシンキングを理解する
1.1 ペルソナを作る
1.2 各フェーズを理解する
1.3 問題提起文を提示する
1.4 ユーザーのニーズを発見する
1.5 ユーザーに深く共感する
1.6 視点を定める
1.7 アイデアを生み出す
1.8 アイデアを選択する
1.9 プロトタイプを作る
1.10プロトタイプをテストする
2. 組織を変革する
2.1 クリエイティブな環境を作る
2.2 異分野連携チームを結成する
2.3 アイデアを視覚化する
2.4 ストーリーをデザインする
2.5 ファシリテーターとして変化を促す
2.6 マインドセットを切り替える
2.7 戦略的展望を持つ
3. 将来をデザインする
3.1 システムシンキングを取り入れる
3.2 リーンスタートアップの発想を取り入れる
3.3 ビジネスエコシステムデザインを築く
3.4 社内を巻き込む
3.5 人間とロボットの関係をデザインする
3.6 デジタル変革を促進する
3.7 AIで顧客体験を変える
3.8 データ分析を取り入れる