日本におけるリモートワークの“いままで”と“これから”
日本で最初に本格的なリモートワークに取り組んだ例としては、1985年、NECがINS(高度情報通信システム)の実用化実験のひとつとして、東京・吉祥寺にサテライトオフィスを開設、一部の業務を行ったプロジェクトが挙げられる。以降、大企業を中心にいくつもサテライトオフィスが作られたが、90年代に入ると下火になる。バブル崩壊で、オフィスのコスト低減や、人材獲得のために働きやすさアピールするというニーズが低下したのだ。
再びリモートワークが注目されだしたのは、オフィスにパソコンが普及し始めた1990年代半ばから。まずは地方の雇用創出の手段として、つづいてワークライフバランスの観点から期待が高まり、政府も普及促進に取り組み始めた。しかし、日本的な雇用慣行のもとで築き上げられたマインドセットやワークスタイルが変化しない中、リモートワークはそれほど浸透しなかった。
状況が変わったのは、東日本大震災のときだ。公共交通機関の運休や計画停電で出社できない、オフィスを利用できないという事態に、一部の企業が在宅勤務で対応したのだ。これにより、2011年のリモートワーク人口は2010年比で1.5倍、2012年は3倍に伸びた。しかし、2013年には減少に転じる(国土交通省「テレワーク人口実態調査」)。震災を機にリモートワークの有用性に気づき、その後も積極的に取り入れていった会社や個人もあるが、多くは従来の働き方に戻っていったようだ。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大が明らかになるにつれ、これまでリモートワークに積極的でなかった企業も導入を考えざるを得ない状況になった。影響が全国的で長期的であることからみても、今年のリモートワーカーの増加率は2011年のそれを上回るだろう。
それでは、今後ウイルスの猛威が過ぎ去ったとき、震災後と同様にリモートワークは一時のブームに終わるのだろうか?
筆者はそう思わない。2010年代前半と比較し、今はリモートワークを支える通信環境やツールが大きく進歩し、ノウハウも蓄積されている。リモートワークに慣れていない人も、周囲のサポートや情報を得やすい。やむを得ずリモートワークをやってみれば、当然ながら幻滅することもあるだろう。それでも「意外と使える」こと、何より緊急事態に際して「リモートワークをできるようにしておかないといざというときにマズイ」と気づき、対応に本腰を入れる企業が増える可能性が高い。