個人・小規模事業(飲食店)の場合
1 現状把握
KPIマネジメントの手順
ここからの実践編では事例を基にして、KGIを達成させるためのKPI設定までのプロセスと、設定後のKPI管理について紹介します。方法は理論編で解説した内容と同じですが、おさらいのためにKPIマネジメントのフロー図を以下に再掲載します
簡易P/Lを作成し、現状を知る
まず見ていくのは、個人事業や小規模事業クラスの飲食店の事例です。
会社や個人事業で飲食店を経営している場合、決算書(青色申告決算書、収支内訳書)などを手元に用意しましょう。このときに選ぶ決算書は前期(前年)の最終結果が記載されているものにします。
決算書をより細分化してある「試算表」があればなお良いですし、前年よりも経営状況が変化してきているなら、直近の月次ベースでの試算表があると正しい現状把握ができます。
さて、手元に用意した決算書では、
- 売上高は、年間いくらでしたか?
- 売上原価は、年間いくらでしたか?
- 売上原価率は、何パーセントでしたか?
- 人件費の額や人件費のパーセンテージは?
- 家賃や広告費の負担額はどれくらいでしたか?
上記のような売上高や飲食店でかかる主なコストは、経営者としては常に頭に入れておきたい数字です。これらの情報をまとめて整理する上でも次のような簡易P/Lを作成してみましょう
2 ありたい姿の設定
イメージ像を数字に落とし込む
現状把握ができたら次は、ありたい姿を設定します。まずは、数字に落とし込む前の定性的な内容でいいので、自社がどのような状態になっているかを考えます。そのあと、企業にどれだけ利益を残したいのかなど定量的な目標値を設定します。
次図のように、最初に定性的なありたい姿をイメージして、そのあと具体的な数字に落とし込むのがポイントです
逆算して、利益から売上高を試算する
ありたい売上の金額は設定できましたか? P/Lの構造が理解できていると逆算の考え方によって、目標とする利益から獲得しなければならない売上高を計算することができるようになります。
しかし、どれくらいの金額を設定してよいかわからないという場合、競合他社の数字(自社より少し大きい規模で業績が好調といわれている企業など)が入手できるなら、それらを参考にしましょう。
また、中小企業庁のホームページでも中小企業実態基本調査などが開示されていて、そこで発表されている平均値などを活用することもできます。そのほか、シンプルに「売上高に対する利益率を10%維持し、毎年1%以上成長させる」という設定でもよいでしょう。「5年後にあの場所に5店舗目を出す。そのためにいくら必要なのか?」などと検討してもリアリティーが出るのでお勧めです
FL比率は売上高の50%~60%が目安
ここでは、営業利益の実績が1,000万円と仮定して、10%アップさせるために年額1,100万円の営業利益を計上することを目標に考えてみます。ここから逆算して、各売上やコスト項目のありたい姿を描いてみると効率的です。
前提として、家賃、広告費、その他の経費は固定額発生するものと想定し、売上原価率、人件費率は同率として、ありたい姿を設定します。
ちなみに飲食店の場合、売上原価(食材費)と人件費を総称してFLコスト(F=Food《食材費》、L=Labor《人件費》)といい、その比率をFL比率といいます
FL比率は売上高の50%~ 60%が目安となります。今回の前提では売上原価率30%、人件費比率25%なので、FL比率は55%になり、FLコスト控除後の利益率は45%になります
3 ギャップの抽出
ありたい姿の簡易P/Lを作る
前ページで1,000万円の営業利益を1,100万円にするという目標を立てました。この1,100万円に固定費である家賃、広告費、その他の経費を加算して、売上原価、人件費控除後の利益額を算出します。算出された4,600万円の利益にFL比率で割り戻して売上高を算出すると次のようになります
●売上原価、人件費控除後の利益額
11,000,000円(目標営業利益)
+15,000,000円(家賃)
+5,000,000円(広告費)
+15,000,000円(その他の経費)
=46,000,000円(売上原価、人件費控除後利益)
●売上高
46,000,000円÷(1-55%《FL比率》)
=102,222,222円(ありたい姿に必要な売上高)
ここまで算出された数字を簡易P/Lに落とし込むと次のようになります
現状とありたい姿のギャップを比較
店舗のキャパシティーや回転数を考慮した設計である前提で話を進めていきます。現状のP/Lと翌年と仮定したありたい姿のP/Lを比較して、次のようにギャップを抽出しましょう
P/Lを比較したことで、どの項目にどれくらいギャップがあるのかが明確になりました。売上原価率、人件費比率は同率としているので、売上高が増減すれば、売上原価と人件費の金額も増減します。そのため、ここでは営業利益100万円のギャップと売上高約222万円のギャップに注目すると、100万円利益を増やすためには、約222万円の売上高が必要ということが明らかになりました
4 プロセス分析
簡易P/Lの構成要素を分析
続いて、簡易P/Lを構成している要素の分析をしましょう。
営業利益を構成する要素を構造的に分解すると次ページのようなロジックツリーになります。営業利益は、売上高から仕入原価などの売上原価、人件費、諸経費を控除した金額から構成されます
売上高を分解
売上高は、「平均客単価×のべ来客数」で構成されます。
飲食店を経営されている方は把握している数字だと思いますが、現状把握の部分(詳細はP.151を参照)で確認した前期の売上高を構成する平均客単価がいくらなのか、のべ来客数は何人だったのかは集計しておきましょう
売上原価を分解
売上原価は、基本的には「平均仕入単価×消費数量」で構成されます。
売上原価はその仕入れ材料の種類によって大きく変わるはずです。改善ポイントを明確にするために、食材、飲料、酒類など区分して原価率を算出してもよいでしょう
人件費を分解
人件費は、固定給の社員であれば「月給×人数」、アルバイトであれば「時給×勤務時間」で構成されます。
固定給の社員も残業代の計算などがあることから、月給を時給に換算して構造化したほうがわかりやすいです
諸経費を分解
諸経費については、固定的なものや変動性のあるものそれぞれですが、年間の総支出金額が多いものからピックアップしておくとよいです。基本的には「単価×数量」で成り立つはずです
5 仮説設定
売上高の改善はコスト削減より効果アリ
今回の事例では飲食店を挙げていますが、簡易P/Lを見てコストが同業他社と比較して同水準であればコストに大きな問題はないと考えることができます。もちろん問題がなくてもさらにコスト削減で利益を増加させることも可能ですが、大きな改善結果を生むことは難しいでしょう。ここではわかりやすく、大きな効果が見込める売上高の改善方法を紹介します
仮説の立て方
売上高は、「平均客単価×のべ来客数」で構成されます。ありたい姿を達成するためには、どの構成要素がどれくらい必要であるか検討しましょう。この飲食店は次のような現状とします
●現状
・平均客単価:6,000円
・のべ来客数:16,667名
平均客単価を上げることも非常に重要ですが、急に平均客単価を上げることで、そもそものべ来客数が減ってしまうことも考えられハードルは高いでしょう。のべ来客数を増加させることで十分金額的にインパクトを与えることができるので、今回は「のべ来客数を増加させる」ことが、売上高のありたい姿を実現させるために必要と仮説を立てます
KPI設定
年間のKPI設定
ありたい姿を達成させるためのプロセスは明確化されたので、次に具体的な数値に落とし込みます
●KPI設定
102,222,222円(ありたい姿に必要な売上高)÷6,000円(平均客単価)
=年間のべ来客数(KFS):17,037名(KPI)が必要(年間370名増加)
逆算することにより、のべ来客数は17,037名必要だということがわかりました。これをKPIに設定します
年間KPIを日次KPIに落とし込む
KPIの設定として年間のべ来客数が決まったので、次は、月間で必要なのべ来客数を設定しましょう。
飲食店はシーズンによってどうしても浮き沈みが発生してしまう業種です。その浮き沈みを減らすことも売上高の増加に大きな影響がありますが、まずは前年の来客数の月間ごとの分布を確認し、その割合に応じた数字をベースに月間のべ来客数を設定します。
合理的なロジックが成立するのなら、もちろんほかの方法で月間のべ人数を算出しても問題ありません。月間のべ来客数が設定できたら、次は週間のべ来客数を設定し、その次は日次ベースの来客数を算出します。これが日々のKPIのベースになり、最終的には日次ごとにKPIを落とし込みましょう。
日ごとで管理することにより、達成できなかったときは翌日に繰り越すようにしていき、最終的に週間、月間でのべ来客数を達成することを目標に事業運営を行います。
イメージができるかと思いますが、これ以外の目標を別にもう一つ設定しても2つの目標を達成するのはかなりハードルが高いので、重要な目標を1つ設定し、それを達成するためにまい進するのがベストだと思います
7 実践とモニタリング
目標と実績の比較
目標であるKPIの設定が完了しました。達成できないKPIでは意味がありませんし、モニタリング(目標と実績の比較)もしないと意味がありません。モニタリングは、次表のように日次ベースでKPIと実績を管理し、「具体的な取り組み」「差異発生の要因」「翌日以降の改善」を振り返り、翌日以降のKPI達成に向けて実践していきます
KPI管理の責任者を決める
事前にKPIの取り組みの責任者を決めておき、判断をする人、まとめる人を設定しておきます。責任者がいないと話がまとまらず、うまくいかないケースが多くあります。