セミナーレポート Biz/Zineセミナーレポート

チクセントミハイ博士に訊く「フローと創造性と組織」

チクセントミハイ博士初来日講演レポート:Q&A編

 ポジティブ心理学の父の一人であり、「フロー理論」の提唱者として知られるミハイ・チクセントミハイ博士。11月18日に行われた日本初講演で「フロー体験」や創造性の源泉について熱く語った。その理論を実際の職場で実践するにはどうしたらいいのか。参加者から寄せられた質問に対する答えをまとめて紹介する。

[公開日]

[講演者] M.チクセントミハイ [取材・構成] 伊藤 真美 [編] BizZine編集部

[タグ] タレントマネジメント フロー フロー理論 クリエイティビティ

  • ブックマーク
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

チクセントミハイ氏に訊く「フロー体験」について

Q.1
 個人ではなくチームや組織におけるフローは可能でしょうか。また、個人との関係性はどうなっているのでしょうか。

A1.
 勢いのあるベンチャーの創設期など、集団がフロー状態になることは多く見られます。そして、フロー状態にある集団に入ることでフローを得ることもできれば、フロー状態の人をそうでない集団が損ねることもあります。また、一人に課題が偏ることで、その一人の不安が他の人に伝播してフロー状態から逸脱するという研究もあります。

 そうしたことを鑑みれば、なかなか組織内のフローを創出し、持続させることは困難かもしれません。しかし、高校生の場合、集団で取り組ませる方がフロー体験を得やすいという結果も出ており、座学よりもグループによるワークショップなどの方が有効といわれています。集団におけるフローの創出は、なかなか難しいけれど挑戦する価値はあるといえるでしょう。

Q.2
 つまらないと感じる仕事を、厳格な上司のコントロール下で行っている状態です。とてもフロー状態になどなれそうもありません。

A.2
 一見絶望的な状態に見えますが、環境に恵まれていないと感じる時ほど、人は仕事そのものをしっかりと見つめていない可能性があります。苦しい状況にあると無気力になり、仕事そのものをつまらないと考えがち。しかし、環境ではなく仕事だけを見つめてみると、工夫や改善、チャレンジの余地が見えてくるでしょう。そこに邁進することで環境が変わる可能性があるというわけです。

 多くの仕事は社会に何らかの形で良い影響を与え、人の役に立っています。そう考えれば、ほとんどの仕事にはフロー状態になる可能性があるということです。逆に反社会的であったり、無価値に感じられたりするような仕事は、どんなに良い待遇でも真のフローは得られません。たとえばギャンブルなどは一時的に高いフローが得られるかもしれませんが、決して継続することはなく、人生全体を豊かにしてくれるものではありません。それを見極めることが大切でしょう。

Q.3
 自意識過剰がフローを阻害するという話がありましたが、萎縮している新入社員は自意識過剰になりがちです。彼らにフロー体験をさせたい場合はどうすればいいのでしょうか。

A.3
 仕事への目的意識が重要な鍵になります。上司に褒められることではなく、仕事の本来の目的が何であるか「自ら気づかせること」が肝心です。そのためには失敗した際には人物を評価せず、仕事のやり方や内容についてアドバイスすることが望ましいでしょう。また、「課題と能力のバランス」に基づき、その人にふさわしい適度に挑戦的な仕事をさせるのも有効です。

 そして、そうした気付きは一朝一夕で得られるわけではありません。子どもの頃から「望ましいこと」でフローを得られるよう気づきを与え、フロー体験をさせる事こそ親と社会の重要な役割といえるでしょう。

Q.4
 フローになりながら、間違った方向、望ましくない方向に行ってしまうこともあるのではないでしょうか。エシカルとエンジョイメントのバランスが重要に思います。

A.4
 まさにそれが問題ですね。正しい方向でフローを獲得すること大切です。プラトンも「最も重要な親の役割は、子どもが正しいことで喜びを感じるように仕向けることだ」と語っています。

 富裕層の子どもたちの中には平然と罪を犯し、その理由について「最も面白かったから」と答えるケースが増えているそうです。確かに彼らは様々なものを与えられてはいますが、自分たちで得る体験をしていないのではないでしょうか。自分の人生をコントロールし、楽しみを自ら得る能力をつける。そのためのトレーニングが必要だと思われます。

Q.5
 一般に社会的に成功している人は常に満足できず、「もっと上を」と思っているように思われます。はじめからゴールを設定せず、1つ成功すると次の目標が現れるステップ・バイ・ステップがフローという考え方でよいのでしょうか。

A.5
 確かに「段階を追って」という表現をしましたが、あの方向を目指す際には最終的なゴールイメージを持つことは大切です。たとえば山登りのようなものといえるでしょう。頂上を目指しつつも、その道程で1つずつ問題を解決する。そのプロセスがあって初めてゴールに立ったときに達成感が得られます。いきなり頂上に立っても同じ喜びは得られません。そしてプロセスでの経験の蓄積こそ、達成の喜びを創出し、良きリーダーの糧となるものなのです。

 そして、頂上は地上にいた時にはゴールに見えますが、到達した段階から通過点の1つになります。フローを知る人はゴールに到達したほんの僅かの間、達成した喜びを感じるものの、次の瞬間には新たなゴールを目指してスタートを切っているものなのです。

バックナンバー