タッパーウェア:機会提供型
1948年、ホームパーティーを通じて商品販売を開始した時からタッパーウェアの快進撃が始まります。これは女性が女性同士の口コミ・ネットワークを利用して販売をする手法です。
アール・タッパーウェア氏は1946年に画期的なプラスチック製ボウル型容器を発明し、ワンダリアボウルという名で発売しました。ただ、今ではどの家庭にもあるこの容器に火がついたのは、1948年にブラウニー・ワイズ氏と組んでホームパーティー方式を活用してからのことです。
ブラウニー・ワイズ氏が始めたホステス・グループ・デモンストレーションズ(別名タッパーウェア・パーティー)では、それぞれの販売員が女性ならではのネットワークを活かし、家のなかでアイデアを凝らしてデモンストレーションを行いました。
タッパーウェアはプラスチック製品を販売するという当初の課題を、女性が夫から自立して収入を得る機会に変えました。独立販売員方式が目覚ましい成果をあげたため、タッパーウェアは1951年に店頭販売を全面廃止しました。
タッパーウェアは女性中心のビジネスとして、女性が自らの人脈を販路拡大の手段として活かし、信頼関係を築いて他の女性に商品を売ることで、自立することを可能にしました。
1.販売促進に役立つ機会を創出できるのは誰かを特定する
第二次世界大戦中は女性の貢献が高く評価されていましたが、戦後は「女性は家庭へ戻るべし」という風潮が強くなっていました。ブラウニー・ワイズ氏は、タッパーウェアがどうすれば主婦に独立した販売員となる機会を提供できるかを見通していました。
2.機会をデザインする
ワイズ氏が生み出したタッパーウェア・パーティーは、主催者(ホステス)が友人知人を集め、タッパーウェア販売 員が製品のデモンストレーションをします。ホステスは謝礼として製品を受け取り、販売員は売上の一部を受け取ります。
3.チャネルを開発する
1954年には販売員ネットワークは2万人に達しましたが、そのなかにタッパーウェアの従業員は1人もいません。委託販売員として、会社と消費者をつなぐチャネルの役割を果たしていたのです。
4.他者を助けて収入を得る
女性は自分の目で見て、さらに友人からの説得力ある口コミを聞いて、製品の使い勝手に納得します。このチャネルが目覚ましい成果をあげたため、タッパーウェアは1951年に店頭販売を全廃することを決定しました。
滴滴出行(DiDi):プラットフォームの城郭型
2012年、滴滴出行(DiDi)は配車サービスを立ち上げ、業界最多数のドライバーと乗客を急速に獲得し、競合他社の追随を許さない状態を作り出しています。
中国版ウーバーといえるDiDiは、北京の深刻な交通渋滞と交通機関の問題を解消することを狙って誕生しました。配車サービス導入以前の中国では、混雑した都心でタクシーの取り合いや闇タクシーに請求された法外な運賃をめぐって乗客が口論している光景は日常茶飯事でした。ここに中国特有の問題がありました。膨大な人口がモバイルを通じてすでにつながっており、過密状態の都市は混雑緩和を必要としていました。
DiDiとは中国語でクラクションの「ブーブー」を意味し、絶え間ない交通渋滞をイメージしています。タクシー配車サービスとして設立されましたが、急速に配車プラットフォームに変化しました。
DiDiの優勢は積極的な買収戦略の成果です。DiDiは2大ライバル会社(ウーバー・チャイナと快的打車)を買収し、今では国内最大級の乗客数と登録ドライバー数を誇ります。
1.プラットフォーム経由で2つのグループをつなげる方法を特定する
DiDiは、乗客とドライバーのマッチングによって個人の移動手段を改善する機会を見出しました。当初、DiDiはタクシー配車サービスとして始まりましたが、急速に拡大して臨時ドライバーも増やすことで配車台数を拡張しました。
2.各グループへの価値提案を創出する
DiDiは登録ドライバー数の多さ、一定料金、待ち時間の短縮、WeChatやAlipayとの統合によって乗客を惹きつけています。ドライバーは、乗客数の多さ、待機時間の短縮、各種割引(ガソリン代や保険料など)に魅力を感じています。
3.両方のグループを積極的に獲得する
DiDiは乗客数とドライバー数を伸ばすため非常に積極的な戦略を追求しており、その最たるものが2大ライバル会社(ウーバー・チャイナと快的打車)の買収です。2019年1月の時点で、DiDiは3,100万人を超える登録ドライバーが5億5,000万人の登録乗客に対応しています。
4.競争上の優位性を得る
2つの相互依存する顧客グループの大きさこそがDiDiの競争上の優位性をもたらしており、中国の交通部門で他のどの会社も競争に参入することは困難です。
IKEA:委任型
1956年、IKEAは「フラットパック」方式を導入することで、従来は家具製造のバリューチェーンの一部だった作業をコストのかからない顧客の作業へと転換しました。顧客は店舗でバラバラの部品状態の家具を購入し、自宅に帰ってDIY方式で組み立てます。
IKEAは「優れたデザインと機能を兼ね備えた幅広い日用品をできるだけ多くの人の手に届くような低価格で」提供することをビジョンとして掲げ、1943年に創業しました。
1956年、IKEAの店舗では「フラットパック」方式を導入しました。家具を部品の状態で販売し、顧客が自宅で組み立てます。運送、組み立て、在庫にかかるコストを削減することで、IKEAは大胆な拡張が可能になり、顧客ニーズによってどこにでも出店してきました。
IKEAは顧客に作業をさせるという方式で世界の49市場で433店舗を展開するまでに成長し、顧客数は9億5,700万人を超え、小売収入は2019年に413億ユーロに達しました。
1.自社の価値の創出を第三者が無料で生み出すことが可能となる方法を特定する
1956年、IKEAは工場から小売センターまでの運搬が容易で安価にできるフラットパックの組み立て式家具を採用しました。ここでIKEAは、顧客にバリューチェーンの一部を担ってもらうという機会を見つけます。
2.価値提案を発展させる
フラットパックにより、IKEAは家具の在庫を増やすことができ、競合他社より手ごろな価格で商品を提供できるようになりました。顧客は購入したい組み立て前の家具をIKEAの店舗で見つけ、自宅に持ち帰って組み立てます。
3.他者に作業を委託して運営費を節約する
IKEAは顧客に作業の一部を委ねることで、運営費を大幅に節約することができました。店舗が倉庫の役割も果たすため、顧客は家具を選び、フラットパックを探し出し、運搬して組み立てるまですべて自分自身で行います。
モジュラーデザインと製造
フラットパック、価格の差別化、そして顧客による組み立ては、世界的にIKEAの代名詞となったモジュール式のシンプルですっきりした、ミニマリストなデザインを極めることに拍車をかけ、さらに製造過程も簡素化されました。
フラットパックによる全体的な経費削減
フラットパックは単に顧客に作業を委ねることでコスト削減ができただけでなく、家具の製造、保管、工場から店舗までの大量運送にかかる経費全体を削減しました。