「問題解決」から「問題設定」に価値が移りつつある
デザインは「問題解決(Problem Solving)」であると説明されることがある。これは、多くの人々がイメージするようなデザイン(つまり主に見た目に関するデザイン)に対し、これまでに説明したような広義のデザインや、デザイン思考などに代表されるような思考法の目指すところを端的に説明したものである。
プロダクトの見た目をよくすることはデザインの重要な役割のひとつであることに間違いはないが、このことを「人々にプロダクトを魅力的に感じてもらい、プロダクトを買ってもらうにはどうすればいいだろうか?」と言った問題に対するソリューションとして考えれば、社会に存在するさまざまな問題に着目してその問題を解決することがデザインであると論じることに大きな違和感はないはずだ。「デザインは問題解決」との定義は、少々の批判も目にすることができるものの、依然として多くの人々に受け入れられているように思われる。
では、解決すべき問題はどこから来るのだろうか。自分たちが取り組むべき問題が明らかな場合もあるだろうが、何に取り組むべきかが曖昧である場合も多いだろう。また、現状が望ましい状態ではないことが明確だったとしても、それがどのような状態になると解決と呼べるのかについて検討を要する場合もあるはずだ。
たとえば、多くの人々はもっと健康的な生活を送りたいと考えているかもしれないが、果たしてどの程度に健康的な生活を実現できれば人々は価値を感じるのだろうか。そもそも人々が思う「健康」とは何であるのか。これを明確にせずにプロジェクトに取り組んで、何らかの「それっぽいもの」が出来上がり、無理矢理に評価指標を作ったとしてそれは本当に問題解決と呼べるのだろうか。
また、「問題の優先度」についても考えなければならない。私たちの目の前に解決を要すると思える問題があったとして、「その問題は本当に自分たちが最優先で解決しなければならない問題なのか」についても私たちは考える必要があるだろう。まずは一息ついて冷静に周りを見渡すと、もっと重要で緊急度の高い問題が存在するかもしれない。全体からすれば些細な問題に貴重なリソースを費やすわけにはいかないだろう。
つまり問題を解決することはもちろん重要であるが、問題を解決しようと取り組む前に、解くべき問題を適切に設定することも等しく重要である。そして、この「問題設定(Problem Setting)」が本連載のテーマであるデザインリサーチの役割である。デザインリサーチャーはプロジェクトのなかで人々に対するインタビューや観察などさまざまな調査手法を駆使して人々を理解する。そしてそこから今後取り組むべき問題を見出す。つまりデザインリサーチに取り組むことによってこそ、自分たちが解くべき問題を適切に定義することができるのだ。