製造現場が抱えている労働力の課題
デジタル化が進み、完全自動化工場、特にクリーンルームを必要とする精密工程を担う工場などでは、「人」がまったく、あるいは極めて少人数しか介在しない操業を実現しているケースが出てきました。しかし、人手を要する工程を抱える工場やプラントが大多数を占めているのが現状です。大企業ですら減価償却のためにレガシー設備を使い続けている場合もあり、保守運用作業に多くの労力を費やしています。
製造現場では様々な理由から「人」が行う必要のある作業がまだ多く存在する一方で、近年の労働人口の減少に加え、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響による新たな課題にも直面しています。
熟練技術者の退職と海外作業員および若年者、未経験者の取り込みと育成
若年者の入職率が低い傾向にある製造業では従業員の高齢化が進んでおり、今後数年のうちに「熟練工」と呼ばれる多くの高齢技術者が退職を迎えます。このままでは、競争力の源泉ともいうべき製造業界の高度な専門技術は、「人」とともに流失していくことになります(図1)。
グローバル企業では輸送コストを削減するために海外工場を開設する場合がありますが、現地で作業員を雇用する際、作業員の技術レベルを一定水準まで引き上げることが重要な課題の一つとなります。国内から現地に熟練工を派遣して指導と訓練を実施する必要があり、輸送コスト削減の効果が相殺されてしまうことも考えられます。また昨今では、生産拠点の国内回帰のムードも高まっており、国内作業員の増員が求められています。そのため、海外拠点と同様に、若年者や未経験者の採用にともなう人件費や出張費などの育成コストが増加しています。
徹底したコロナ対策下での工場操業の必要性
昨年来のパンデミックにより、すべての企業や人々にはかつてない変化が求められています。オフィスワークでは、書類作業や署名捺印手続きの電子化など、デジタル技術を導入することで大勢の人々が集まる状況を避けるための働き方改革が進んでいます。しかし、工場やプラントの操業、保守運用サービスなどでは現場での作業を必要とするプロセスが多く存在しており、同様の改革は進んでいないといえるでしょう。ただ、「必要」だからという理由で従来の働き方を押し通すだけでは、社会や人々の理解を得ることは困難です。製造企業にはサービスや製品の品質だけではなく、工場やプラントの拠点となる地域の環境、医療、社会機能を健全に維持するための社会的責任に基づいた運営と操業が期待されています。
工場やプラントを継続的に操業しつつウイルスから地域と従業員を守るためには、日常的なソーシャルディスタンスの確保はもちろん、感染者が出た際に速やかに濃厚接触者を特定して感染拡大を防ぐとともに、行政、医療施設、地域に正確な情報を公開できるよう、きめ細かな対応をあらかじめ想定しておくことが重要になります。